2019年11月16日(土) 天気:晴
キチジョウソウでメガピクセル機対決 Kodak DCS 420 vs FUJIX DS-505A
朝晩の冷え込みが気になるようになると,キチジョウソウが開花をはじめる。日本の気候に適しているようで,瀞峡で買ってきて以来(2006年11月19日の日記を参照),少しずつ増殖しつづけている。自宅に咲く花が少ない時期,近所の紅葉が本格化するにはちょっと早い時期の,貴重な被写体となる。
ただ,キチジョウソウの花は小さい。撮影対象にするときにはどうしても,接写が中心となる。
今日は,「前世紀末のメガピクセル機対決」ということにしよう。
「メガピクセル機」という表現は,すっかり過去のものになっている。これは,撮像素子の画素数が100万画素をこえたデジタルカメラをさす呼びかたである。
デジタルカメラの存在が,広く意識されるようになったのは,1995年にCASIO QV-10が発売されてからのことになるだろう。カメラメーカーに限らず,さまざまなメーカーやブランドから多くのデジタルカメラが発売されるようになるが,それらが使う撮像素子の画素数は,30万画素程度のものであった。パーソナルコンピュータのディスプレイいっぱいに表示するにも,少々,画素数が不足している。カメラの価格を抑えるためだろうか,固定焦点のもの(ピント調整ができないもの)が大半で,レンズの性能にも妥協があったように感じている。つまり,いまひとつすっきりした画像が得られない。
そのころ,ライカ判フィルムと同等の画質を得るには600万画素は必要である,という説明をよく耳にした。Kodakから600万画素クラスのデジタルカメラが発売されてはいたが,その価格は300万円をこえており,趣味の用途で個人が買えるようなものではない(2016年1月14日の日記を参照)。そのころ,100万画素くらいで記録できるカメラであれば,100万円台になっていた。せめて100万画素あれば,大きなプリント出力は無理でも,パーソナルコンピュータの画面いっぱいに表示することはできる。
1997年に,OLYMPUS C-1400Lが発売された。撮像素子は140万画素のものであり,いちおうファインダーは一眼レフ形式になっており,オートフォーカスでピントもきっちりとあわせることができた。その価格は128,000円で,多くの人に手の届くものだった。私は1999年に,中古品として入手している。
そののころの「メガピクセル機」という名称は,高画質のデジタルカメラという意味が含まれていたように感じていた。もちろん,当時としても「比較的高画質」というくらいの意味合いではある。なぜならば,業務用とされていたデジタルカメラとくらべれば,まだまだ不満を感じる点も多かったものである。OLYMPUS C-1400Lの発表にあたっても,「…業務用途の高額なデジタルカメラや銀塩カメラに匹敵する超高画質でありながら、個人ユーザーにも手の届く価格を実現した…」(*1)という表現が使われている。
今日は,その「業務用途の高額なデジタルカメラ」の対決である。
まずは,Kodak DCS 420だ。
1994年に発売され,撮像素子は150万画素のものを使っている。発売当時の価格は,149万円である。Nikon F90X(実際にはアメリカ向けのNikon N90sが使われている,また初期のモデルではNikon N90が使われている)に,デジタルバックをくみあわせたものだ。したがって,撮影の機能としては,Nikon F90Xと同じものとなる。
撮像素子の画素数は150万画素で,撮像素子の大きさは13.8mm×9.2mmという小さなものである。したがって,実際に写る範囲は,ファインダーを覗いたときの中央部付近に限定される。そこで,ライカ判カメラで使うと四隅が大きくケラレてしまうが,kodak DCS 420では問題のない,Karl Storz 593-T2というレンズと組みあわせる(2019年6月30日の日記を参照)。本来は内視鏡と組みあわせて撮影するためのレンズで,カリっとしたシャープな画像が得られるのが特徴だ。
Kodak DCS 420, Karl Storz 593-T2
つぎは,FUJIX DS-505Aだ。
1995年に発売されたFUJIX DS-505を改良したもので,1996年に発売された。撮像素子は,130万画素のものを使っている。発売当時の価格は,89万円である。ずいぶんと高価であるが,Kodak DCS 420の149万円とくらべれば,4割も安い。また,FUJIX DS-505の価格110万円からくらべると,2割も安くなっている。このように,まだ高価であるとはいえ,急激な価格低下が進んでいたから,いつかは600万画素の一眼レフカメラに手が届くようになることを,期待していたものである。そして,メガピクセル機であれば,数年程度以内ではないかと。
このカメラは,富士フイルムとニコンが共同で開発したものとのことで,両者のブランド名がカメラの前面にはいっている。また,ニコンから同じ機種が,Nikon E2シリーズとして発売されている。
撮像素子の画素数は130万画素で,大きさは8.8mm×6.8mmというKodak DCS 420よりもさらに小さなものである(Kodak DCS 420の撮像素子は,150万画素のものとしてはずいぶんと大きいのである)。しかし,ライカ判サイズで結ばれた像を,小さな撮像素子に縮小するためのレンズ(縮小光学系)が組みこまれている。そのため,ファインダーはライカ判サイズのままで覗くことができる。ライカ判サイズのカメラ用レンズを,ライカ判カメラと同じ感覚で利用できることが,このカメラの大きな特徴である。
ただし,使用するレンズと縮小光学系との相性というものがあり,相性のよくないレンズを使うと,周囲がケラレるなどの問題が生じる(2019年9月28日の日記を参照)。
今日は,「ニコンおもしろレンズ」セットに含まれる接写用レンズ,「ぐぐっとマクロ」を使う。
FUJIX DS-505A, Nikon amusement lens Macro 120mm F4.5
同じ花を撮っても,こんなにも違った色になる。
Kodak DCS 420は,渋く落ち着いた印象,FUJIX DS-505Aは,明るく鮮やかな印象になる。
デジタルカメラを選ぶことは,フィルムを選ぶことと,同じような意味をもつのだ。だから,無難できれいなだけでは,ものたりないこともある。むしろ,危なげな個性を感じられるような,そういう画像が得られるほうが,撮影が楽しくなる。
なお,FUJIX DS-505Aは撮影した画像をJPEG形式で記録するが,Kodak DCS 420は特殊なTIFF形式のファイルとして保存する。そこから一般的なJPEG形式などに変換するときに色の調整ができるので,技術のある人ならば,仕上がった印象をもっと近づけることができるかもしれない。
また,今回は両者で,まったく異なるレンズを使っている。色の差には,レンズの違いが影響している可能性もある。
つまりだ,両者の条件がそろっていないのだから,これは「対決」として成立していないのである。つぎの機会には,同じレンズを使ってくらべてみよう。
*1 超高画質一眼レフデジタルカメラ「CAMEDIA C-1400L/C-1000L」 専用プリンタ「CAMEDIA P-300」により写真画質プリントを遂に実現 (オリンパス光学工業株式会社)
→https://www.olympus.co.jp/jp/news/1997b/nr970917c1400lj.html
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