撮影日記


2019年11月23日(土) 天気:晴

タムロンマクロでメガピクセル機対決
Kodak DCS 420 vs FUJIX DS-505A

1990年代後半,CASIO QV-10の発売をきっかけに,一般のユーザがデジタルカメラというものを手にすることができるようになった。しかし,それらのデジタルカメラはまだまだ発展途上にあるもので,得られる画像はたとえ小カットであっても印刷の原稿にできるようなものではなかった。もちろん,フィルムでの撮影結果と比較できるようなレベルには遠く及ばない。
 デジタル一眼レフカメラは,1980年代末には試作が進められていた。1990年代にはいると,報道など一部の業務において,実用的に使われるようになった。ただし,それらの業務用とされるデジタル一眼レフカメラはきわめて高価なものであり,個人が趣味で使うために購入できるようなものではなかった。

たとえば,この5台で合計1001万円(発売当時に設定されていた価格)である。
後列中央のDCS 420が149万円,DCS 460が349万円(両端の2台),前列右側のFUJIX DS-505Aが89万円だった。
前列左側のNikon D1は266万画素で液晶モニタも搭載されて65万円。
Nikon D1以降,個人がデジタル一眼レフカメラを買えるようになったように思う。
現在では,それぞれ数万円程度(実際に購入した金額あるいは売られているのを見た金額)であろう。

発売当時はきわめて高価だったデジタル一眼レフカメラも,そのスペックは,いまとなってはさびしいものである。たとえば,もっとも注目されやすい仕様上の数値の1つに,撮像素子の画素数というものがある。現在ではエントリーモデルのカメラでも,2000万画素程度はあたりまえであるが,1990年代のデジタル一眼レフカメラでは,130万画素程度だった。数値だけを見るととてもさびしいのだが,130万画素あれば,パーソナルコンピュータのディスプレイいっぱいに画像を表示できる。200ppiで出力すれば,L判サイズくらいはじゅうぶんだ。書籍のカットのように,4〜5cm角くらいで使うならば,300ppiでも問題ない。
 130万画素というのは,大きなプリントを展示するという目的に使うには,かなり厳しい。しかし,一般的なサイズの印刷物にちょこっと掲載する画像の原稿をつくるには,ことたりるのである。

いま,中古カメラ店などで,1990年代の業務用とされるデジタル一眼レフカメラを見かける機会は,少ない。たまに,店頭にあらわれるときには,数万円程度の価格がつけられていることが多い。スペック面から考えれば,不当に高価な価格に感じるだろう。たぶん,現代のエントリーモデルのカメラの中古品のほうが,高スペックであり安価だろう。しかし,発売当初は100万円をこえていたようなカメラが,数万円で買えるのだ。しかも,流通した数はあまり多くないと思われる。歴史的意義も含めて考えれば,むしろ安価ではないだろうか。
 そして,動作する状態にあるものは,さらに数が減る。これらのカメラが動作するうちに,いかにこれらが実用的な製品であったかを追体験し,確かめて記録に残したいものである。

先週は,当時の業務用デジタル一眼レフカメラ,Kodak DCS 420とFUJIX DS-505Aを使いくらべてみた。ただし,それぞれの特徴をいかせるレンズを装着したので,厳密な比較にはなっていない(2019年11月16日の日記を参照)。今日は,どちらも同じレンズを使うことにする。

まずは,Kodak DCS 420とTAMRON SP 90mm F2.5 (52B)だ。
 接写を楽しむためのレンズとして,定番中の定番であろう。とくにマニュアルフォーカスのものは,独自の交換マウントシステム(アダプトール2)を採用しているので,多くのメーカーのボディと組みあわせて使うことができる。実際にこのレンズを使う人が多くなり,それだけ名声も高まったのではないだろうか。
 TAMRON SP 90mm F2.5 (52B)の最大撮影倍率は,1/2倍である。フィルム(撮像素子)面に,実物の1/2の大きさで像を結べるというものだ。

Kodak DCS 420, TAMRON SP 90mm F2.5 (52B)

ただし,Kodak DCS 420は撮像素子が小さいので,ライカ判のカメラよりも狭い13.8mm×9.2mmの範囲しか写らない。1/2倍で撮影すると,27.6mm×18.4mmの範囲を写すことになる。すると,ライカ判の等倍程度以上で撮影したように見えることになる。

Kodak DCS 420, TAMRON SP 90mm F2.5 (52B)

Kodak DCS 420で得られる画像の大きさは,1524ピクセル×1016ピクセルのものである。300ppiで出力すれば,L判サイズまで対応できる。

Kodak DCS 420, TAMRON SP 90mm F2.5 (52B)

これなどは四切サイズくらいにプリントして飾ってみたいものだが,もしするならば,100ppiくらいで出力しなければならない。

つぎは,FUJIX DS-505AとTAMRON SP 90mm F2.5 (52B)だ。
 撮像素子は8.8mm×6.8mmという小さなものだが,撮像素子の前にある縮小光学系のために,ライカ判のカメラと同じ感覚でレンズを使用できる。そして,このレンズは,縮小光学系との相性が悪くない。ともあれ,ライカ判サイズで1/2倍なので,さきほどのKodak DCS 420のようにどこか1点に着目したような撮り方よりも,花茎全体をかっちりと撮るようにするほうが,適しているだろう。

FUJIX DS-505A, TAMRON SP 90mm F2.5 (52B)

先週と同じように,FUJIX DS-505Aで撮ると,明るく鮮やかな印象の画像になるようだ。

FUJIX DS-505A, TAMRON SP 90mm F2.5 (52B)

得られた画像については,双方の差がわかりやすいので,カメラを使いわけるのは楽しそうである。ただ,印刷の原稿として利用するならば,FUJIX DS-505Aのように,明度が高い印象の画像のほうが,あとの補正が比較的楽なのではないかという気がする。一方で,FUJIX DS-505Aは連写ができず,次のコマを撮影するまでに少々の間が生じる。たとえば,絞りをかえて撮ってみようということがスムースにできない。それに対してKodak DCS 420は5コマまでの連写が可能なので,撮影時にそういうストレスを感じることはない。
 現代のデジタル一眼レフカメラは,画素数が増えただけではない。連写性能なども大幅に向上しており,使いやすくなっているのは間違いない。当時のカメラマンたちは,そのような一長一短ある面に,いろいろな工夫で対応し,使いこなしてこられたのであろう。


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