撮影日記


2024年06月08日(土) 天気:曇

ふつうの組立暗箱は使いやすいカメラ

白いユリが,たくさん咲いた。これは,モノクロ印画紙を利用した大判撮影に適した被写体である。

この春にチューリップを撮影したときは,ベースボードが長いタイプの古典的な暗箱と,焦点距離が300mmくらいと思われる古典的なレンズとの組み合わせを使った(2024年4月7日の日記を参照)。この暗箱は,どういう点が古典的なのかといえば,ピント調整のために前枠あるいは後枠を微動させる機構がないことである。適度に摩擦のあるベースボードをおさえながら,前枠あるいは後枠を直接スライドさせることでピント調整をする。そのため,ルーペでピントグラスを観察しながら,ピントを微調整することは難しい。このことは,入れ子の箱をスライドさせるようになっていた,最初期の写真機であるジルー・ダゲレオタイプカメラと基本的にかわりがないといえる。
 チューリップの撮影については,花が比較的小さいことと,鉢植えなので撮影時の配置が自由になることから,焦点距離が長めのレンズでの接写をおこなうようにした。カビネサイズ(165mm×120mm)で300mmレンズを使うと,おおむねライカ判(36mm×24mm)で65mmレンズを使ったときに相当する範囲が写ることになる。

それに対してこのユリは,花壇に植えている。花の位置や向きなどを自由に変えることができず,長焦点のレンズで撮るにはやや不都合な位置で咲いている。そこで,比較的焦点距離の短い,FUJINAR 18cm F4.5を使って接写をすることにした。カビネサイズで180mmレンズを使うと,おおむねライカ判で38mmレンズを使ったときに相当する範囲が写ることになる。撮影倍率が等倍近くになると,被写体との距離をかなり短くすることができる。

このレンズで撮るために,蛇腹の伸ばしやすさを考えて八つ切サイズの組立暗箱を使うことにした。この暗箱は,「Okuhara Camera」の銘板がついたピント板とセットになっていたものである(2023年4月13日の日記を参照)。八つ切サイズの組立暗箱でカビネサイズの取枠を使うためのピント板は,これとは別に入手していたものを使う(2020年9月23日の日記を参照)。これらはすべて「Okuhara Camera」で製造されたものと思われ,問題なく組みあわせることができた。なお,組立暗箱はどれも同じような形と構造だが,その大きさに厳密な規格はなく製造者によって微妙に異なっているようである。そのため,適当に買い集めたものを組みあわせようとしても,うまくはまらない場合がある。

使用した「Okuhara Camera」の暗箱は,ごくふつうの組立暗箱である。前枠と後枠がベースボード上にたたみこまれているのを起こすと,前枠と後枠とが蛇腹でつながった撮影ができる状態になる。このように,撮影のために組み立てる必要があることから,組立暗箱とよばれるのである。

この種の組立暗箱では,古典的な暗箱と違って前枠あるいは後枠を微動させるしくみが備わっている。ベースボードの端にあるノブがピニオン(小径の歯車)を回すようになっており,そのピニオンがベースボードについたラック(ピニオンの歯とかみあうような歯がついた直線状の部品)を動かすようになっている。これによってノブを回すことで前枠あるいは後枠を少しずつ動かし,精密なピントあわせができるようになっている。古典的な暗箱のようなスライド式では片手でピントあわせをすることが難しいが,ノブを回す方式であれば片手でも楽にピントの微調整ができる。冠布をかぶり,一方の手でルーペをもってピントグラスを観察しながら,もう一方の手でノブを回せばよいのである。

FUJINAR 18cm F4.5は,富士写真フイルム発行の「創業25年の歩み」によれば,1951年6月に発売された(*1)レンズである。ただし,当初は「レクター」という銘だった(*2)とのことで,FUJINAR銘のこのレンズは,1951年より後の発売であると考えられる。また,日刊工業新聞社発行の「国産光学機械要覧」によれば,FUJINAR 18cm F4.5は,4枚構成のテッサータイプとのことである(*3)。つまり,4月にチューリップを撮るときに使った古典的なThomson Brothersレンズにくらべると,ずっと近代的なレンズであるということになる。FUJINAR 18cm F4.5は60年ないし70年前のレンズであるのに対して,そもそもThomson Brothersレンズはもしかすると120年以上前のレンズかもしれないのである。

ともあれ,ピントグラスに写る像も鮮明で,ノブによる容易な操作とあわせて,じつにピントあわせがやりやすい。古典的な暗箱をしばらく使ったあとだと,じつに使いやすいのである。そのため用意していた取枠6枚(両面あわせて12枚)をサクサク撮りすすめることができた。あまりに調子がよすぎて,絞り込むのを忘れたカットもあったが,しかたない。取枠の両面を利用して,露出を少し変えて1つの場面を2枚ずつ撮るようにしているので,絞り込むのを忘れた次のカットは,落ち着いてきちんと絞り込むのを確認するようにはした。
 なにごとも,調子に乗って急ぐのは,よろしくない。

*1 「創業25年の歩み」(富士写真フィルム,1960年)p.587 (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2493068/1/719

*2 「創業25年の歩み」(富士写真フィルム,1960年)p.291 (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2493068/1/419

*3 「国産光学機械要覧」(応用物理学会光学懇話会 編,日刊工業新聞社,1955年)p.29 (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2474782/1/26


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