2015年07月29日(水) 天気:晴
アトロンなら毛糸洗いに自信がもてます? いや,撮影が楽しくなりそうだ。
低気圧とは,周囲よりも気圧の低い場所を指す。低気圧が接近すると,曇天から雨天になる。日本に影響する低気圧としては,北側の比較的冷たい空気と南側の比較的暖かい空気とが接触する面(この面が地表に接するところを前線という)に発生する,温帯低気圧というものがある。温帯低気圧のほかに,温度の高い低緯度において激しい上昇気流と地球の自転の力によって発生する,熱帯低気圧というものもある。とくに,日本付近に影響をおよぼすもので,中心付近の最大風速が17.2m/s以上になったものは,台風とよばれる。台風がその強い勢力を保ったまま日本に近づくと,各地で暴風が吹き荒れ,大雨や高潮をもたらすこともある。
台風の進行方向右側は「危険半円」とよばれ,左側は「可航半円」とよばれる。台風は反時計回りの強い渦巻状の風をともなっており,進行方向右側はその風に加えて台風自身が進む力が加わるので,より一層,風が強くなる。逆に左側は,力が打ち消しあうので比較的風が弱くなる。台風の進行方向右側では船の航行について危険度が高いのに対し,左側は危険度が低いことから「危険半円」「可航半円」というよびかたがなされるようだ。さらには,台風から逃れようとする場合,右側では向かい風になって脱出しにくい(帆船であれば脱出が不可能である)ことも「危険半円」とされる理由になっている。このあたりについてのことは,いささか古い書籍であるが「台風物語」(饒村 曜 著,日本気象協会)に詳しく語られているので,参照されたい。
先々週末,台風11号が広島に影響を与えそうであることが予報されていた。台風の最接近が予想されていたのは,7月17日の朝である。そして迎えた7月17日の朝は,たまに強い風が吹くものの,いたって平穏なものであった。台風11号は高知付近に上陸した後も北上を続け,さらに岡山付近を通過して日本海へ抜けたようである。岡山のほうではかなり激しい雨が降ったようだが,広島は平穏なものであった。つまり広島は,台風11号の「可航半円」にはいっていたということである。
台風11号の接近にあわせて広島付近のJRは,「7月17日は始発より電車の運転を見合わせ」ることを,前夜に発表していた。万一,事故が起こることがないよう,慎重な判断をした結果である。だが風雨ともあまり強くなることはなく,JRが運転を見合わせていたのに対して,バスはほぼ通常通り運行されていた。
JRが運転の見合わせを前夜に発表したせいか,この日は学校をはじめ公共施設等に休業するところがあった。その影響で私は,7月17日に予定していた健康診断を受けることができなくなり,今日に変更されたのである(笑)。
台風が接近していた7月17日とは違って今日はよく晴れているので,救出したばかりのヤシカ「アトロン」(2015年7月12日の日記を参照)の試運転をしてみることにした。
Yashica ATORONは,ミノックス判カメラである。ミノックス判は,幅9.5mmのフィルムがカートリッジに入ったものを使い,そこに8mm×11mmの画像を記録する。Yashica ATORONは1965年に発売された,日本ではじめてのミノックス判カメラということになっている(2010年9月17日の日記を参照)。1970年には後継機のヤシカ「アトロン・エレクトロ」が発売されている。その後しばらく,日本のメーカーからミノックス判カメラは発売されなかったが,1984年になると浅沼商会から「アクメルM」「アクメルMX」,1993年に「アクメルMD」が発売されている。「アクメルMD」はその後,発売元がフジカラー販売にかわって,「MC-007」という名称になった(2010年9月18日の日記を参照)。
カートリッジフィルムを使った超小型カメラは,商品の性格として2つの方向が考えられる。1つは,スパイカメラ的な性格である。フィルムは小さくてもそこにできるだけ精密に写すことで,高品質な写真を得ようとするものである。もう1つは,お手軽で簡便なカメラという性格である。
では,Yashica ATORONは,どちらの性格をもっているだろうか?
きれいな写真を写すために必要なことはなにか,考えてみよう。レンズやフィルムの条件が同じであれば,ピントを被写体にきちんとあわせ,適切な露光を与えることが必要である。Yashica ATORONの正面には,いくつかの窓が並んでいる。中央付近にある窓は,撮影レンズである。カメラに向かって右端の窓は,ファインダーである。撮影レンズとファインダーの間にある,縦に筋の見える窓は,露出計の受光部である。Yashica ATORONは,上面のダイアルを,内蔵された露出計が示す指針にあわせるようにまわすことで,適切な絞りとシャッター速度の組みあわせが得られるようになっている。つまり,適切な露光を与えることができるカメラである。その一方で,焦点の位置は固定されており,きちんとピントをあわせることができない。また,Yashica ATORONには,黄色フィルタが内蔵されており,レバー操作で簡単にフィルタをかけることができる。今ではあまり意味がないように思われる機能だが,モノクロフィルムによる撮影においては適度にコントラストを高めたり,肌を明るく見せたりできることから,黄色フィルタの使用は基本的なテクニックの1つであった。
このように機能を眺めてみると,全体としてきちんとした写真を撮ることができるカメラを目ざしているように思われる。それだけに,ピント調整ができないことが,あまりに惜しい。
ミノックスのカメラや,のちに発売されたYashica ATORON ELECTRO,ACMEL MDといったカメラでは,目測式ではあるがピント調整ができるようになっていたこととくらべると,残念な点である。
ところで,ふと思い立って,「小さいこと」を追求したと思われるカメラを並べてみた。Yashica ATORON,ACMEL MD,PENTAX auto110である。このように並べると,PENTAX auto110がとても大きなカメラに見えるのが愉快である(笑)。カメラも大きければ,画面サイズも大きい。110判の画面サイズ(13mm×17mm)は,ミノックス判の画面サイズ(8mm×11mm)の2.5倍ある。この差は,ライカ判とセミ判の関係に近い。そう考えるとYashica ATORONにはもう少し,小さくなることにこだわってほしかったような気がする。ついでに書くと,Yashica ATORONは,個人的にはあまりカッコイイとは思わない。
残念な面の強いYashica ATORONであるが,金属製のボディから感じられる重さと,けっして上品とは言えないもののメカが動作していることを主張しているかのごとき音は,心地よいものがある。これらがYashica ATORONを使うことの楽しさを補強してくれていることは,まぎれもない事実である。カメラというものは,実際にさわった感触についても,魅力を発するものなのである。
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