撮影日記


2023年01月14日(土) 天気:曇ときどき雨

スチルビデオカメラの生存率は低い?

いま,富士フイルム「チェキ」用のインスタントフィルムを除くと,撮影用のフィルムがやや入手難になっているらしい。たとえば,ヨドバシ.comなどを閲覧すると「在庫僅少」「お取り寄せ」になっている銘柄が目立つ。そのような状況のせいか,インターネットオークションなどでは,大幅に有効期限を超過したフィルムがそこそこの価格で落札されるような現象が見られる。なかには,劣化が進んで実用に耐えないのではないかと懸念したくなるようなコニカブランドのカラーネガフィルム(2022年10月16日の日記を参照)がかなりの高値で落札されるケースも見られる。いわゆる期限切れフィルムは,その保管状況などによって劣化の程度が異なるとはいえ,落札する側はその状況をどのくらい許容するつもりなのだろうか。それとも,そのあたりの事情に無知な相手に売り抜けようとする,いわゆる「転売屋(テンバイヤー)」であろうか。
 フィルムが入手難になっている状況の根本的な原因は,撮影用フィルムの需要が減り,それにあわせて生産が減った結果なのだろうとは思う。いま,あらたに発売されるカメラは「デジタルカメラ」ばかりで,フィルムを使って撮影するカメラはごく簡便なものが発売されているだけなのが現状である。「デジタルカメラ」に対して,フィルムで撮影するカメラを「アナログカメラ」と呼ぶ人もあるようだが,わたしはそのような語の使い方は適切ではないと考えている。「デジタルカメラ」を「撮影した画像をデジタルデータとして記録する装置」であるとすれば,「アナログカメラ」は「撮影した画像をアナログな方法で記録する装置」となるだろう。たしかにフィルムに塗布された薬品の化学的な変化による記録はアナログな現象を利用したものであるとみなせるが,アナログな電気信号として記録する「スチルビデオカメラ」が存在したのだから,その存在を無視してはいけないと考えるのである。記録する方式に着目した「銀塩カメラ」という語のほうが好ましいと考える。ただし,個人的にはあまり好きな表現ではない(2016年3月10日の日記を参照)。
 「スチルビデオカメラ」は,デジタルカメラが一般的になる前の,ごく短い期間ではあるが,市場をにぎわせたシステムである。画像をアナログの電気信号としてフロッピーディスクに記録するもので,テレビに表示させたり,電話回線で送信したりすることができた。そのため,医療機関や報道機関などでの業務用として一定の普及は見られたようである。また,D.P.E.店などでプリントするサービスも用意されていたが,一般向けとしてはあまり普及したような印象はない。CASIO VS-101という機種(2020年11月5日の日記を参照)は,7割引や8割引きにしてもまったく売れなかったと言われている。
 1995年3月にCASIO QV-10というデジタルカメラが発売されて以後,さまざまなデジタルカメラが発売されるようになった。そして,スチルビデオカメラはその存在を忘れられていく。

スチルビデオカメラを中古カメラ店で見かけることは,いまとなってはごく少ない。そんな中でも,見かけることが比較的多い機種の1つに,KYOCERA DA-1がある。いま,スチルビデオカメラを中古カメラ店で見かけることが少ないのは,それは流通した数だけの問題ではなく,経年による劣化で正常に動作する個体が少なくなっていることが,大きな問題になっていると考えている。これまでに何台かのスチルビデオカメラを入手してきたが,曲がりなりにも撮影ができたのは,SONY MVC-A10とKYOCERA DA-1だけであった。Canon RC-250,SONY MVC-C1,CASIO VS-101はいずれも,撮影できる状態ではなかった。これには,スチルビデオカメラが流通していた1980年代後半から1990年代前半にかけての電解コンデンサに「四級塩問題」(*1)があったことが大きく関係しているという。スチルビデオカメラ(ムービーのビデオカメラを含む)には電解コンデンサが多く使われており,とくに影響が大きいようである。
 KYOCERA DA-1は,デジタルカメラCASIO QV-10よりもあとに発売されたスチルビデオカメラである(2017年11月28日の日記を参照)。1990年代後半の発売であり,このころには電解コンデンサの四級塩問題が解消していたことが考えられ,そのために現在でもなんとか動作する個体が比較的多く残っていると思われる。スチルビデオカメラには記録専用の機種もあるので,1台で記録も再生もできるKYOCERA DA-1は,スチルビデオカメラというシステムに興味があるならば,動くものを1つ確保しておくと,なにかと好都合だろう。

ブックオフのお店で,元箱に入ったKYOCERA DA-1を見かけたので,保護してきた。KYOCERA DA-1であれば動作する可能性も期待できる。KYOCERA DA-1は以前にも入手していたので,2台目ということになる。

箱を開けると,本体のほかにストラップ,取扱説明書,ソフトケース,ビデオフロッピー1枚,ビデオ接続ケーブルも入っていた。とくに取扱説明書が,ありがたい。京セラは,YASHICAブランドや,YASHICAによるCONTAXブランドのカメラなどを継承してきた。一定の支持があり,人気のある機種も多く発売してきた。しかし,カメラ事業を終了したときに,過去のカメラ製品の発表資料やサポート情報などもすべて,Webには掲載しなくなった。事業が終了し,アフターサービスも正式に終了したのだから,それらの情報を掲載し続ける必要はない。むしろ,まだサポートが続いているという誤解を与えかねないので,掲載を継続するには慎重さが必要だろう。それはわかる。わかるのだが,公式の情報に容易にアクセスできなくなるのは,残念である。ともあれそういう京セラの製品だから,取扱説明書があると,製品の仕様などについての本来の内容を確認しやすいのである。
 ともあれ,動作確認をおこなうことにした。電池を入れれば,電源はONになる。ビデオフロッピーも認識した。シャッターレリーズボタンを押せば,フロッピーディスクに書き込みをおこなうかすかな音が聞こえる。そして,液晶表示板のフィルムカウンタの数字が進む。ビデオケーブルでビデオ入力のある液晶テレビに接続し,カメラを再生モードにすると,撮影した画像が表示される。画像に乱れはなく,正常に記録および再生ができているようだ。

しかし,このKYOCERA DA-1(2台目)で撮影し,以前に入手していたKYOCERA DA-1(1台目)で再生すると,像が乱れる。逆に,以ほかの1台目のDA-1で撮影し,2台目のDA-1で再生しても,像が乱れる。また,1台目のDA-1で記録したさいしょの数コマの存在が,2台目のDA-1では無視される。この現象からは,2台目のDA-1のフロッピーディスクドライブに少々問題があるのではないかということが想像できる。フロッピーディスクドライブは,どうしても故障しやすいのであろう。
 それでもKYOCERA DA-1は,スチルビデオカメラのうちでは経年劣化の影響が少なく,まだ使える状態にあるものが多いのは,たしかなことなのかもしれない。

*1 中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(41)アルミ電解コンデンサー(8)―― 市場不良と四級塩問題 (EDN Japan,アイティメディア株式会社)
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2003/18/news113.html


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