撮影日記 |
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2020年09月26日(土) 天気:はれよくわからないゲルツのレンズインターネットオークションで落札したガラクタ一式(2020年9月23日の日記を参照)のなかに,古そうなレンズが含まれていた。 全体が,黒いべったりしたもので覆われていた。マニキュアの除光液を使ってこれを取り除いたところ,次のように読める刻印があらわれてきた。 GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III No.10643 「GOERZ」(ゲルツ)は,ドイツで古くに活動していた光学機器の会社の名称である。第一次世界大戦ののちに,イカやエルネマンなどと合併して,ツァイス・イコンを形成することになる会社としても,知られている。 このレンズは,組立暗箱で使うような木製のレンズボードに固定されていた。そこに,距離目盛のようなものは見えるので,鏡胴がまわりそうに思えるが,固くて動かない。 刻印を確認するために,表面の黒いものを落としていくうちに,この部分がまわるようになってきた。まわるものの,鏡胴が前後に移動するわけではない。はずしてみると,ヘリコイド(らせん形に,前後に動かすような機構)の痕跡が確認できる。このレンズはもともと,ボックスカメラのようなものに使われていたレンズであり,それを組立暗箱で使うように改造したものと思われる。表面にあった黒いべったりしていたものは,ヘリコイドの部分を固めることも兼ねて,エナメルかなにかで塗装していたものだったのだろう。 鏡胴の側面には,細いスリットがある。正面には,F6.3からF40までの絞り値が刻まれている。このスリットからなんらかのレバー状のものが伸び,レンズ内の虹彩絞りを設定できていたのかと想像するが,そのような機構は失われているようだ。 そこで,後群のレンズをはずしてなかを見たところ,虹彩絞りがあったような痕跡はない。そのかわり,薄い板をはさめそうな溝がある。もしかするとここに,穴の開いた絞り板を挿入するようになっていたのかもしれないが,そうすると,絞り値が刻まれた目盛が正面にあることと整合しない。ここが本来,どういう形になっていたのかは,はっきりしない。 正体のはっきりしないレンズであるが,いちおうきれいになったので,試し撮りをする。本来,ある程度の大判カメラで使われていたものとは思うが,今日のところは適当なベローズ(2016年11月12日の日記を参照)に取りつけて,デジタル一眼レフカメラで使うことにする。 今年は,去年と同じくらい,ヒガンバナの開花が遅い(2019年10月1日の日記を参照)。ようやく,あちらこちらで満開を迎えようとしている。今日は近所で,白い花が群れている場所で撮ることにした。 Kodak DCS Pro 14n, GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III 120mm F6.3絞り機構がないので,撮影はつねに開放となる。開放F値は,レンズに刻まれている値を信じることにする。焦点距離は,実測による推定値である。また,言うまでもないが,このカメラ(Kodak DCS Pro 14n)でこのレンズを使うときには,内蔵露出計が使えない。マニュアル露出で撮影し,撮影した画像のヒストグラムを見てほどほどの露出値においこむことになる。 Kodak DCS Pro 14n, GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III 120mm F6.3かなり古いレンズであり,外見などかなり傷んでいるにもかかわらず,ふつうにきれいに写っている。前ボケも後ボケも,ごく自然に感じられる。ただし本来,もっと大きな判で使われるはずのレンズだったと思われるので,周辺部の描写のアラが見えていないという可能性はある。ともかく,ライカ判サイズで写っている範囲については,じゅうぶんな写りである。 Kodak DCS Pro 14n, GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III 120mm F6.3接写域での撮影でも,ふつうにきれいに写っている。 Kodak DCS Pro 14n, GOERZ DOPP ANASTIGMAT SERIES III 120mm F6.3F6.3で暗くそれなりに被写界深度があるため,ピントあわせはやや困難であるが,ピントがあえばとくに問題はないのである。 |
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