2020年06月22日(月) 天気:晴
アートを名乗る謎の暗箱
1950年代の日本では,多くの二眼レフカメラがつくられていた。その名称の頭文字は,アルファベットのAからZまで,ほんとどすべてが使われていた。そのような二眼レフカメラ製造者には,そののちもさまざまなカメラを供給するようになったメーカーもあれば,二眼レフカメラだけでカメラの製造から撤退したと思われるところもある。小規模なメーカーのなかには,その実態などがほとんど伝わっていないところもある。小規模なメーカーの製品でも,それなりの数が出荷されて,雑誌等に広告をだしていた。そのためある程度は,どんな製品がいつごろ出荷されていたかを知る手がかりがある。また,それなりの数が流通したモデルであれば,実物も多く残っている。そのため,広告などの資料と実物との同定も,多くの人の手によってかなりできている。
それでもなかには,量産に成功しなかったのであろうか,広告があっても実物が見つかっていないモデルもあるようだ。逆に,実物があっても広告などが見つからず,製造者などがわからないモデルも存在するようである。
どちらかといえば一般市場をターゲットに低価格路線で売り出されたと思われる二眼レフカメラの場合は,雑誌に掲載された広告が多く残っている。それに対して組立暗箱は,まず広告をなかなか見かけない。組立暗箱という形態のカメラは,明治時代からずっと製造されていたはずだが,明治時代はまだ一般の人がカメラをもつような時代ではなく,昭和にはいったころにはもっと使いやすい小型カメラが一般の人に向けて宣伝されていた。組立暗箱の広告を見かける機会が少ないのは,こういう背景が考えられる。そして,組立暗箱には,製造者をあらわすような銘板がついていないことも珍しくない。広告などの資料もなく,製造者もわからず,実物だけが存在する。同じような組立暗箱があったときに,それらが同じ製造者によるものかどうかを同定できるだけの手がかりもないのである。
バックアダプタに銘板のついている,カビネサイズの組立暗箱を入手した。
銘板には「Art」という大きなロゴが記され,その下に「FIELD CAMERA」という文字がある。製造者が「アート」を名乗っているか,この製造者による「アート」というシリーズのカメラであると考えられる。組立暗箱を「フィールドカメラ」と称するのは,比較的あたらしい時代のことだと思うが,そのあたりの確証はない。
もしかすると,「FIELD CAMERA」以外にも「Art」を名乗るカメラが存在するのだろうか。そう考えて思い浮かぶのは,富山製作所の「アートパノラマ」カメラである。そこで,富山製作所のWebサイト(*1)を参照するが,1953年に創業の富山製作所が「アートフィールドカメラ」という名称で木製の組立暗箱を発売していたことを示すような記述はみつけられない。たとえば,1957年に発売した「アートビューカメラ」は,「日本初の全金属製4×5ビューカメラ」を称している。それよりも前,1955年に発売された「トミービューカメラ」は,「ちいさな伝記」というWebサイトの記事(*2)によれば金属製のカビネサイズカメラとのことである。木製のカメラを「アートフィールドカメラ」という名称で発売するような状況は,まったく見えてこない。
ぱっと見たところでは,どれも同じように見える組立暗箱でも,細かく見ていくといろいろと相違点があることに気がつく。前支柱および前枠のまわりは,製造者による特徴が見えそうな場所の1つである。
このArt FIELD CAMERAでは,前枠のなかにスライドする部分があり,そこにレンズボードを取りつけるようになっている。前枠のスライド部分を固定するネジと,前枠を前支柱に金具で固定するしくみが,以前から使っているM.S.K.(2020年6月7日の日記を参照)のものとよく似ている。そのほか金具の使い方などにも似たところがあるので,もしかするとM.S.K.の組立暗箱の製造者と,Art FIELD CAMERAの製造者とには,なにか近い関係があるのかもしれないが,それを確信できるには至らない。
先日のVICTORY号(2020年6月20日の日記を参照)と同じく,カメラの名称はわかっても,それ以上の手がかりがないのである。
*1 会社概要 (株式会社富山製作所)
→http://www.tomiyamaseisakusho.co.jp/profile009.html
*2 富山製作所 (ちいさな伝記)
→https://chiiden.net/富山製作所/
|