2015年10月14日(土) 天気:晴
液晶ディスプレイのないディジタルカメラなんて… 撮れるの,あと何枚?
ディジタルカメラが一般的なものになったのは,1995年のCASIO QV-10の発売以降のことである。CASIO QV-10以前にも,ディジタルカメラは発売されていた。また,アナログではあるものの,電気信号として画像を記録するタイプのカメラ(たとえば,スチルビデオなどと呼ばれていた)も発売されていた。しかしそれは,どちらかというと特殊なものであり,一般的に普及していたとは言い難いものであった。
また,CASIO QV-10は,2012年度に「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」(*1)として登録されている。それは「銀塩からデジタルへと、カメラ文化の転換点を担った重要な事象を示す」(*2)として,高く評価されている。ここでCASIO QV-10の名称は,「液晶デジタルカメラ QV-10」として扱われている。選定理由にも「世界で初めてカラー液晶モニターを搭載」「撮った画像をその場で確認できる操作性」(*2)が示されており,液晶ディスプレイを内蔵していることが,CASIO QV-10の大きな特徴であると認識されている。
ディジタルカメラには,液晶ディスプレイが内蔵されていることが必須のものであるといえる。
CASIO QV-10の成功によって,画像を確認するための液晶ディスプレイを内蔵する価値が理解されたわけだが,それ以後に発売されたすべての機種に画像を確認するための液晶ディスプレイが内蔵されていたわけではない。
内蔵されていない理由には,大きく2つのことが考えられる。
1つは,その機種が廉価版として企画されている場合である。カラー表示のできる液晶ディスプレイを省略することで,大幅なコスト削減が期待できたことだろう。もう1つは,消費電力を抑えるために,液晶ディスプレイを使わないようにしたものである。1997年に発売されたMITSUBISHI DJ-1000も,低価格をセールスポイントの1つとするディジタルカメラだった。
先日のOLYMPUS C-1400Lと同様に,ジャンク扱いのディジタルカメラをまとめて入手したなかに含まれていた1台である。私はこの機種のことを知らなかったので,「MITSUBISHI」ブランドのディジタルカメラが存在していたことに,まずは驚いたものである。DJ-1000は,いまはなきパソコンショップ「T・ZONE」でCFカードとセットで安価に売られていたようだから(*3),私が知らなかっただけで,カメラ趣味者ではなくパソコン趣味者にとってはけっこう有名な存在だったのかもしれない。
とにかくシンプルで,コンパクトで,低価格であることを,大きなセールスポイントにしていたようである。MITSUBISHI DJ-1000で操作する部分は,電源スイッチとシャッターレリーズボタンしかない。それくらい,シンプルである。
よく似たディジタルカメラに,TOSHIBA Allegretto PDR-2がある。それでも,シャッターレリーズボタンと電源スイッチのほかに,画質モードの選択(FINE/NORMAL)ボタンやディスプレイの切りかえボタン(撮影可能枚数か撮影済み枚数かを切りかえる)が上面にあり,底面には消去ボタンがある。TOSHIBA Allegretto PDR-2には,撮影した画像を確認するための液晶ディスプレイはないが,撮影可能枚数や画質モードの状態を示すための小さな液晶ディスプレイは内蔵しているのだ(2015年9月12日の日記を参照)。
それに対して,MITSUBISHI DJ-1000に液晶ディスプレイは,まったく存在しない。
左側のカバー部分には,電源として単4乾電池2本が入る。右下のカバー部分には,CFカードが入る。ファインダーの窓があるほかには,LEDによるインジケータが2つあるだけだ。じつにシンプル。潔いほどに,シンプルである。
電源スイッチをONにすると,上側のBUSYインジケータと下側のMEMORYインジケータが点灯する。
MEMORYインジケータが赤く点灯しているのは,「記録できない」という意味のようだ。電源スイッチをONにしてからしばらくは,CFカードの点検でもおこなっているのだろうか,いまは「記録できない」ようである。
しかし,この状態が長く続く。10秒以上待たされて,BUSYインジケータが消灯し,MEMORYインジケータが緑色に点灯する。これでようやく,撮影準備完了だ。
撮影した画像は,内蔵させたCFカードに記録される。MITSUBISHI DJ-1000本体にはUSB端子などあるはずもなく,撮影した画像をPCに転送するには,CFカードを取り出してそれをカードリーダを利用して接続することになる。
ところが,CFカードに記録されたデータのファイルには,「.DAT」という拡張子がついている。JPEGやTIFFといった汎用の形式ではなく,独自の形式のようだ。そのままでは,PHOTOSHOPなどのソフトウェアで開くことができない。幸いにも,MITSUBISHI DJ-1000の画像データを.BMP形式に変換するためのフリーソフト「DAT2BMP」(*4)が公開されているので,なんとか実用することができたのだった。いわゆる「DOSコマンド」を打ち込むなんて,何年ぶりのことだろうか?(笑)
MITSUBISHI DJ-1000
まず,いつもの駅前のポストである。「DAT2BMP」では明るさや色などが細かく設定できるようになっているが,MITSUBISHI DJ-1000の画像ファイル(DATファイル)は,いわゆるRawデータのようなものなのだろう。ともあれ,いくら調整しても,妙にどぎつい赤にしかならないのであった。
MITSUBISHI DJ-1000
周辺減光は,顕著である。「トイカメラ」で有名なLomographyがよく使う「トンネル効果」(笑)と言ってよいかもしれない。お世辞にも,きれいな画像が得られるとは言いがたいものがある。
MITSUBISHI DJ-1000
道路標識の色は,まあ悪くないものになっているが,全体としてかなり苦しい感じがする画像である。
MITSUBISHI DJ-1000の撮像素子は,1/5型の25万画素CCDで,補色フィルタ付きとのこと。「DAT2BMP」の初期値で変換したところ,得られた画像の大きさは,320ピクセル×240ピクセルである。
この大きさで見るかぎりでは,意外と像はシャープで,そこそこ解像しているように見える。しかし絶対的な画素数が少ないのだから,拡大して表示しようと思うがっかりするだけである。また,色についてはどうにも不安定としか言いようがない。「トイカメラ」として,予期せぬ描写を楽しむしかなさそうである。ただ,MITSUBISHI DJ-1000は,そもそもカメラとして企画されていない可能性も高い。底面に三脚に取り付けるためのネジ穴がないことから,それを伺うことができる。三菱といえば,「月光」などの印画紙や「パシャリコ」といったレンズつきフィルムの供給を通じて,カメラ業界・写真業界にかかわっていたはずだが,それはあくまでも三菱製紙であり,DJ-1000を発売した三菱電機とは違うということだろう。まあ,どうでもいいことではある。
MITSUBISHI DJ-1000で撮影した画像ファイルの大きさは,128KBで一定のようである。JPEGへの変換や圧縮などの処理がカメラ内では,まったくなされておらず,すべてPCへ転送して専用ソフトで調整するようになっているのだろう。それも,カメラを小さく軽く低価格にすることに貢献しているに違いない。
MITSUBISHI DJ-1000に付属してくるCFカードは,2MBのもので,そこに15枚の画像が記録できることになっていた。ところで私の手元にあるもっとも容量の小さなCFカードは,256MBのものである。256MBのCFカードも問題なく認識して使えたことはありがたいが,色が変わるLEDのインジケータだけでは,何枚撮影したのか,あと何枚撮影できるのか,それを知る術はまったくないのであった。何枚撮影できるのか,まあ,計算すればわかるからいいだろう。
*1 重要科学技術史資料::産業技術史資料情報センター (国立科学博物館)
→http://sts.kahaku.go.jp/material/2012pdf/no113.pdf
*2 登録番号 第00113号 (国立科学博物館)
→http://sts.kahaku.go.jp/material/2012pdf/no113.pdf
*3 DJ-1000 (株式会社亜土電子工業) Internet Archives
→https://web.archive.org/web/19990417095148/http://www.ado.co.jp/1st/dj1000/dj1000.htm
*4 DAT2BMP (Vector)
→http://www.vector.co.jp/soft/dos/art/se133142.html
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