2015年10月15日(木) 天気:晴
歴史的名機の名残を楽しむ CASIO QV-70
1995年3月に発売されたCASIO QV-10は,ディジタルカメラというものを一般市場に定着させたエポックメイキングな製品であることは,多くの人が認めるところであろう。2012年度に「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」(*1)として登録されていることは,それを公的にも認めていると言える。
だから,CASIO QV-10はぜひ入手しておきたい。
とはいえCASIO QV-10の性能は,いまとなってはたいしたものではない。数値に表現されるスペックも,ごくごく低いものである。そんな製品だから,できるかぎり安価に入手したいと考えているのだが,そもそも中古カメラ市場で見かける機会そのものが,ごく少ないのが現状である。
また,いかにCASIO QV-10のスペックが低いとはいえ,それなりの金額を支出して入手するならば,実用したくなるものである。そのためには,外見が傷んでいるのはかまわないとしても,すべての機能がいちおう動作するものであってほしい。さらにCASIO QV-10は,内蔵されたメモリに撮影した画像データを記録する。それを取り出すには専用のケーブルでパソコンと接続し,専用のソフトウェアで処理する必要がある。それらがすべて揃っていなければならない。そういう条件を満たすものは,もはやなかなか市場にあらわれるものではないのかもしれない。
CASIO QV-10はその後,CASIO QV-10A (1996年3月発売)にモデルチェンジされた。CASIO QV-10にくらべれば,少しは市場で見かける機会があるようだが,接続ケーブルやソフトウェアも揃った状態で安価に見かけることはない。接続ケーブルやソフトウェアがなく,まさに本体だけであるならば,動作するものがジャンクコーナーに埋もれる程度の価格であってもらいたいものである。その後さらにCASIO QV-11 (1997年2月発売)にモデルチェンジされる。
CASIO QV-10,QV-10A,QV-11はすべて,ほぼ同じような外見をしている。いずれも,25万画素の1/5型CCDをもち,焦点距離5.2mm,開放F2.8の単焦点レンズを搭載する。絞りは2段階で切り替えられ,絞り優先AEになっている。ピント調整は,できない(固定焦点)。そして,1.8型の液晶モニタを内蔵しており,レンズ部分は回転することができるという,同じ仕様になっている。大きな違いは内部の画像処理ソフトウェアが改良されたことにあるらしく,そのほかにはボディの色,そしてメーカー希望小売価格くらいが相違点のようである。QV-10は65,000円,QV-10Aは49,800円,そしてQV-11は38,000円という具合だ。
その間1996年には,撮像素子が36万画素の1/4型CCDになり記録画素数が640ピクセル×480ピクセルになった高画質タイプのQV-100や,レンズが4mmと9mmの2焦点式になったQV-30が発売されている。それでも,QV-10の基本的なスペックそのままのディジタルカメラが発売されつづけていたのであるが,QV-100は63,000円,QV-30は69,500円だったようだから,QV-10は低価格化のためにモデルチェンジが重ねられていったということになる。
CASIO QV-10とそのシリーズは,液晶モニタを内蔵させたことにより,一般向けディジタルカメラの市場を開拓することができた。液晶モニタによって,撮った画像をすぐに見ることができるうえに必要なければ削除することもできるのは,それまでのフィルムを使ったカメラでは考えられなかったことである。画質は,フィルムを使った撮影にくらべるとてんでお話しにならないレベルであったが,ランニングコストがかからずにそのような楽しみ方ができたという魅力も大きい。だが,その液晶モニタが問題点にもなった。それは,電池の消耗が激しいことである。CASIO QV-10の液晶モニタは,撮影した画像を見るだけではなく,撮影時のファインダーとしても使用されるので,どうしても電池の消耗が激しくなるのである。
そこで,液晶モニタを使わなくても撮影できるように,光学ファインダを設けたCASIO QV-70が1997年8月に発売された。
これも先日のOLYMPUS C-1400LやMITSUBISHI DJ-1000と同様に,ジャンク扱いのディジタルカメラをまとめて入手したなかに含まれていた1台だ。入手時は汚れが激しく,電源スイッチも失われており,不動品かとも思えたものである。だが電池ボックスも含めて軽く清掃し,細いドライバの先で隙間から見えるスイッチを動かしてやると,無事に起動してくれた。
CASIO QV-70は,CASIO QV-10から数えると,6つ目の機種ということになる。この機種の特長は,全体に小型化され,光学ファインダが設けられたことにある。仕様を見ると,撮像素子は25万画素の1/5型CCD,レンズは5.2mm F2.8,そして固定焦点で,QV-10と同じである。もちろん,内部の画像処理ソフトウェアなどは大きく改良されているものと思うが,数値にあらわれる仕様は,変わらない。
液晶モニタをファインダとして利用することは,消費電力の問題のほかに,動く被写体にじゅうぶんについていけないという問題もあった。たしかにQV-70で液晶モニタをファインダとして利用すると,写したいほうへカメラを向けても,一呼吸おいてから画面が流れ,それから静止する,という感じになる。なるほど,動く被写体をこれでおいかけるのは,ストレスがたまりそうである。じっくりと構図を整えるときには液晶モニタをファインダにし,動く被写体を追いかけるときや電池の消耗が気になるときは液晶モニタをオフにして光学ファインダを使えばよい,という使い分けが提案されているわけである。
そしておそらく,CASIO QV-10の液晶モニタも,これと同じくらいストレスのたまるものであったと思われる。
CASIO QV-70は全体に小型化され,さらに光学ファインダを設けたことにより,それまでのCASIO QV-10以来の製品とはすっかり異なるスタイルになっている。いちばんの大きな違いは,CASIO QV-10では撮影レンズ部が回転するようになっていたのに対し,CASIO QV-70では撮影レンズが固定されたことにある。撮影レンズ部の回転機構をなくしたのは,工作を容易にすることで価格を下げることを狙ったものと思われる。
撮影レンズが自由に回転するというCASIO QV-10の機構は,レンズの後ろにある撮像素子と画像を処理する電子回路とが電気的に接続されていればよいからこそできることであり,フィルムを使ったカメラでこのような機構を設けることは,たぶん現実的ではないだろう。つまり,CASIO QV-10はじつにディジタルカメラらしい製品であった。それに対してCASIO QV-70は光学ファインダを設けたことにより,フィルムを使った従来のカメラらしい製品になったという見方もできる。
そういう面ではCASIO QV-70に,歴史的に大きな意味のあるCASIO QV-10の面影を見ることはできない。しかし,液晶モニタをファインダとして撮影するとき,その反応の遅さなどに,CASIO QV-10の名残が感じられるのである。CASIO QV-10の名残は,そこだけではない。撮影した画像は本体内のメモリに記録され,それをパソコンに取りこむには専用のケーブルとソフトウェアが必要であるという使い勝手の面でも,CASIO QV-70にはCASIO QV-10の名残があるのである。
このたび救出したCASIO QV-70は,本体のみである。専用の接続ケーブルやソフトウェアは,入手できていない。つまり,CASIO QV-70で撮影した画像をパソコンに転送する術が,いまのところないのであった。
*1 重要科学技術史資料::産業技術史資料情報センター (国立科学博物館)
→http://sts.kahaku.go.jp/material/2012pdf/no113.pdf
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