撮影日記


2015年05月18日(月) 天気:雨

ケンコー・ミラージュ双眼鏡
「安物買いの銭失い」になるのだろうか?

遠くのものを見るときには,望遠鏡や双眼鏡が使われる。望遠鏡や双眼鏡は,見たいものに向ける側にある大きなレンズ(対物レンズ)と,覗く側にある小さなレンズ(接眼レンズ)で構成される。望遠鏡は,接眼レンズを交換して,倍率を変えられるようになっている。
 望遠鏡の接眼レンズ(アイピース)をはずし,かわりにカメラを取りつければ,超望遠レンズとして使える。このようにして撮影するやり方は,直焦点撮影とよばれる。それによる画質は,超望遠レンズそのものである。なお,カメラ用の超望遠レンズは多数のレンズで構成されているが,望遠鏡の対物レンズは2枚のレンズを貼りあわせたものであることが多い。カメラ用交換レンズのカタログ風に言えば,1群2枚だ。だから性能が圧倒的に劣るように感じるかもしれないが,乱暴に言ってしまえば,望遠鏡の場合は焦点距離にくらべて無理に全長を短くする必要もないので,単純な構成でも十分な性能が得られることになる。
 望遠鏡の接眼レンズを覗きこむようにして,接眼レンズを通して見える像を撮影する方法もある。これはコリメート撮影とよばれ,どちらかというと簡易的な撮影方法とされる。接眼レンズの口径はごく小さいので,そこを覗きこむためのカメラのレンズも小さいほうが都合よい。立派な一眼レフカメラで覗きこむよりは,コンパクトディジタルカメラや携帯電話機に内蔵されたディジタルカメラ機能のように,ごく小さなレンズが使われているもののほうが都合よいのである(2010年5月16日の日記を参照)。

だが,望遠鏡の接眼レンズにコンパクトディジタルカメラを押し当てての撮影は,面倒である。なにかうまく固定する方法があれば,もっと撮りやすくなる。最近,ケンコーの製品に,「スマートフォン撮影補助ホルダ」というものがあることを知った。フレキシブルなアームの片側はスマートフォンをはさんで固定できるようになっており,他方は接眼レンズに固定するためのリングになっている。これだ!と思ったが,どうも単体では販売されていないようで,「観測セット」というものに含まれているだけのようである。
 「観測セット」は,7×50の「双眼鏡」(ミラージュ 7×50),「三脚」,双眼鏡を三脚に固定するための「ビノホルダ」と「スマートフォン撮影補助ホルダ」のあわせて4点がセットになったものだ。それだけのものがセットになっていながら,せいぜい5000円前後の価格で販売されている。
 どう考えても,安い。安すぎる。
 双眼鏡だけの値段としても,安すぎる。三脚だけの値段としても,安すぎる。さすがに,ホルダだけの値段として考えれば高すぎるが,4点あわせた値段としては,あまりに安い。ここまで安いと,とても不安になる。

双眼鏡の選び方として,「倍率にだまされるな」というものがある。双眼鏡は遠くのものを見るための道具だから,倍率は大きければ大きいほどよさそうに思えるわけだが,そうではない。遠くのものが大きく見えても,接近した2点が分離して見えなければ,「大きいけれどぼんやりしているだけ」というものになる。いたずらに倍率をあげたところで,像がぼんやりしていたり暗かったりしたのでは,結果として「よく見えない」ものになる。また,双眼鏡は手持ちで使うことが多いだろう。倍率が高いと見える範囲が狭くなるわけで,目標とするものを視界に入れるのが難しくなる。また,少し動かしただけで見える範囲が大きく変わってしまうので,せっかく見つけた目標を見失いやすくなる。
 双眼鏡の性能をあらわす「数字」はいろいろなものがあるが,もっとも重要なものは,「倍率」ではなく「口径」だと考えればよいだろう。単純に,口径が大きいほど,よく見える双眼鏡になると考えてよい。「倍率」は,用途にもよるが,10倍以下のものが一般的に使いやすいとされ,小型の双眼鏡では6〜8倍のものが多い。
 実際の購入にあたっては,「値段」というのも重要な「数字」であろう(笑)。これも単純に,高いものほど「よい」ものである。よく知られているメーカーの製品をカメラ店など専門の販売店で買うのであれば,粗悪品を不当に高価に買わされる心配はないだろうから,高いものほど「よい」ものであると言い切ってしまおう。ただしここで言う「値段」は,メーカー希望小売価格ではなく,実売価格である。
 実際には,いたずらに高倍率を謳う製品は少なくない。安いものほど,無理に高倍率を謳うものが見られるように感じる。
 ところで,「観測セット」に含まれているケンコーの双眼鏡は,けっして高倍率を謳ってはいない。この双眼鏡のスペックをあらわす「7×50」という数値は,×の前にある「7」が倍率を,後にある「50」が口径をあらわしている。7倍という倍率は,双眼鏡としては妥当なものである。そして,50mmという口径は,手持ちで使うことを前提にした双眼鏡としては,けっして小さいものではない。
 しかし,あまりに安すぎることから,「安物買いの銭失い」になりそうな予感もする。さすがに5000円を無駄にしてしまうのは,もったいない。

とりあえずもっとも安く買えるショップはどこだろうかさがしていると,「観測セット」にはさらに安いものがあることがわかった。セットに含まれる双眼鏡が,「7×50」よりも小さな「8×30」(ミラージュ 8×30)というものになっている。これだと,3000円以下で売られているショップが多い。3000円以下ならば,双眼鏡や三脚が予想通りに使い物にならなかったとしても,「ちょっと高いホルダを買った」と思えば納得できそうに思われた。さらに調べて,ケンコーのオンラインショップのジャンク品コーナー(*1)では「2000円」で売られていることがわかった。2000円なら,たぶん後悔はしない。
 ところが,送料という問題が発生する。送料を無料にしてもらうためには,購入金額を5000円以上にしなければならない。なにか3000円程度でおもしろそうな商品がないかさがしていると,「7×50」の双眼鏡が3000円ほどである。あらためてこの双眼鏡についての評判をネット上で検索してみると,「値段を考えればよくできている」「外見はおもちゃだが使えなくはない」という意味の評価が目立つ。
 結局,「ミラージュ 8×30」観測セットと「ミラージュ 7×50」双眼鏡を注文したのであった。価格としては,「7×50」の観測セットを買ったら「8×30」の双眼鏡がおまけについてきたことと同等となる。

届いてさっそく覗いてみたのが,夕方の空の水星である(2015年5月13日の日記を参照)。まだ明るさの残る低空に水星の姿を見つけるには,この双眼鏡はじゅうぶんに役立った。ネットで見かけた評価のとおり,外見はまさにプラスチック製のおもちゃである。強度に不安があるものの,極端にハードな使用をしなければ問題ないだろう。そして,あまりもの安っぽさの引き換えとして,この「ミラージュ 7×50」双眼鏡はとても軽いのである。長く覗いていても,手はほとんど疲れない。レンズは意外とまともなようで(失礼),視野の隅でもあまり像は崩れていない。ただし,内部の反射防止対策は完ぺきではないようで,その点はやや見苦しい。一言でまとめれば,「レンズの性能はギリギリまで妥協」「ボディは徹底的にコストダウン」といったところだろうか。あわせて「ミラージュ 8×30」でも覗いてみたが,こちらは視野の隅での像の崩れ方が,やや大きく感じられた。「ミラージュ 7×50」に対する「値段を考えればよくできている」という評価は,こういうことだったのだろう。なお,「ミラージュ 8×30」や「ミラージュ 7×50」よりも,ペンタックス「タンクロー 8×24」(これも高級な双眼鏡ではないが「ミラージュ」ほどは安くない)のほうが,像がシャープに感じられたことは書き添えておく。「使い物にならなくはない」と言ったところで,やはりケンコー「ミラージュ」は安物のようだ。
 さて,双眼鏡そのものよりもたいせつなのは,「スマートフォン撮影補助ホルダ」である。「スマートフォン撮影補助ホルダ」でスマートフォンを「ミラージュ 7×50」に取りつけた。三脚(「観測セット」の三脚ではなくスリック「プロ・ミニ」を使用)に固定して,水星を視野に入れて撮影したものがこの画像である。

NTT DoCoMo P-01D, KENKO Mirage 7x50

赤丸で囲った中心にある点が,水星である。
 これを「なんだ,この程度の写りか」と残念がるか,「こんなお手軽でここまで撮れるのか」と喜ぶか,微妙なところだ。今回の買い物が「安物買いの銭失い」にならないように,もう少しいろいろ使ってみようと思う。
 なお,ケンコーのオンラインショップのジャンク品コーナーには,「7×50」の観測セットも掲載されていたが,残念ながら品切れになっていた。価格は2200円だったので,これの在庫があれば「即,買い」だと判断するのだよいだろう(私は,もういいから(^^;)。

*1 ジャンク商品 (ケンコー・トキナー オンラインショップ)
http://ec1.kenko-web.jp/category/1130.html


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