撮影日記


2024年12月10日(火) 天気:晴

森式キング露出計の使い方

写真を撮影するとき,露出の基準を求めるためには,露出計という道具を使う。電気露出計が普及する以前には,いろいろな計算尺式の露出計が発売されていた。

関式サロン露出計(初期型)

日本国内で流通したものとしてもっとも有名なものに,関式サロン露出計というものがある。アルスが発行する雑誌「カメラ」では,1938年11月号ではじめてその広告が掲載され,「片手一回!簡単極まる操作」がまずアピールされている。また,「十大特色」がまとめられており,その第1でも「操作の簡便と迅速」がアピールされている(*1)。「カメラ」1939年1月号に掲載された関式サロン露出計の広告では,その「使用法」が掲載されている(*2)。これによると,円盤を回転させて,まずフィルムの感光度とそのときの天気をあわせ,ネジをまわして固定しておく。ここまで準備しておけば,あとは月別・時間帯別で示されている光度の目盛と,被写体の目盛をあわせるとあり,この部分が「片手1回」の操作をあらわしている。一度でも使ってみれば,簡単に使えるようになるとは思うが,はじめて製品に触れる人がこの手順に気がつくのは難しいかもしれない。

佐和式露出計算尺(初期型)

関式サロン露出計より先に発売された,佐和式露出計算尺の操作は,これくらべると手数が多くなる。

佐和式露出計算尺(初期型)裏面

まず,裏面の表で,その月・時間帯の光度係数を求める。そして,本尺(外側の固定されている部分)にある光度係数と,滑尺(内側の動くようになっている部分)の天気の目盛をあわせる。次に,赤いカーソルをフィルムの係数にあわせる。フィルムの係数は,裏面の表で確認できる。さいごに,カーソルを動かさないように滑尺を動かし,絞りの目盛をカーソルにあわせる。そうすれば,被写体に応じたシャッター速度を読み取れるようになる(2022年2月06日の日記を参照)。手数が多く,カーソルなどを一時的に固定しておくしくみもないので,操作はかなり煩雑だといえる。また,はじめて製品を手にした人には,この手順はわからないだろう。どうしても,説明書のようなものが必要になる。また,ときどき係数表の見直しや更新がおこなわれていたようなので,もしも実用しようと考えているならば,できるだけあたらしものが好都合かもしれない。取扱説明書には発行日が記されているから,ぜひとも取扱説明書とセットで入手したい。

森式キング露出計

これらよりもさらに先に発売された,森式キング露出計について,見てみよう。
 佐和式露出計算尺と同じく,直線状の計算尺の形になっている。本尺と滑尺はどちらも金属製であり,赤いカーソルは金属の枠にガラスがはめ込まれたものになっている。厚紙製の佐和式露出計算尺よりも,ずっと高級なものに感じられる。
 使うときは,まず,本尺にある「時」の目盛と,滑尺にある「月」の目盛をあわせる。つぎに,赤いカーソルを「天候」にあわせると,「光度順位」が決まる。そして,赤いカーソルを動かさないように滑尺を動かし,「光度順位」と「被写体」をあわせる。これで,当時の「普通乾板」での露出の基準が求まったことになる。
 はじめて操作するときには,やはり説明書を参照したいものであるが,裏面に操作手順が記されているので,その点は問題ない。

森式キング露出計 裏面

このようにくらべてみると,関式サロン露出計は,操作がわかりやすくできていると評価できる。モデルチェンジを重ねながらほかの計算尺・計算盤式の露出計がほぼ見られなくなった1960年ころまで発売が続けられ,さらにセノガイドとして1980年代に入っても発売されていたことも,納得できるというものである。
 そんな関式サロン露出計が抱える大きな欠点として,反りが生じやすいということを指摘しておく。本体はプラスチック製だが,大きなツマミがいくつもあるせいか,とくに第二次世界大戦後の円形でなくなったものは,大きな反りが生じて円盤を動かしにくくなっているものが目立つ。反りを戻そうとしても簡単に曲がるような素材ではなく,無理に曲げようとすると割れてしまうだろう。

関式サロン露出計 戦後のモデル

それに対して,森式キング露出計の本体は金属製であり,反りという問題は生じなさそうである。ただ,金属とはいえ素材は薄いアルミニウムのようで,とてもやわらかい。そのためか,入手したものはあちらこちらが微妙に曲がってしまっており,滑尺もカーソルもスムースには動かなくなっていた。それでも,やわらかいだけに,慎重に力を加えて伸ばしていくと,なんとか動くようにはなる。
 もしかすると,いちばん安っぽいようだが厚紙製の佐和式露出計算尺が,本体の素材としてはなにかと好都合なのかもしれない。

*1 「カメラ」(アルス,1938年11月号) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/1501849/1/25

*2 「カメラ」(アルス,1939年1月号) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/1501851/1/27


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