撮影日記


2024年11月24日(日) 天気:晴

関式サロン露出計IIA型の前期型と後期型

写真をきれいに撮るためには,適切な露出の基準を知ることが必要である。1960年代以降,ほとんどのカメラには明るさを電気の流れに変換することで客観的に測定できる,電気露出計が内蔵されており,露出の基準を簡単に知ることができるようになっている。最近のカメラのほとんどは,電気露出計で計測した結果がそのまま,絞りやシャッター速度(場合によっては感度の設定)などに反映される,自動露出機構があるため,電気露出計の存在を意識しないことが多いだろう。電気露出計を使わずに,露出の基準を知るための道具は,古くからいろいろなものが使われてきた。撮影年月や時刻,天気,被写体の条件などをあわせることで露出の基準を判定できる道具が,「電気」の使わない露出計として流通していた時代もある。
 1980年代にはいっても販売されていた,「セノガイド」はそのような露出計の1つである。被写体の条件が絵で示されていることもあるせいか,妙に評価が高いようである。インターネットオークションなどにたまに出てくると,かなり強気な価格が設定されていることが多い。また,競合者があらわれて,競り上がってしまう傾向も見られる。
 「セノガイド」の前身にあたる製品として,「関式サロン露出計」というものがあった。「セノガイド」のことを知りたいがなかなか入手できないでいたころ,安価に出品されているのを見かけた2つの「関式サロン露出計」に入札してみたところ,2つとも落札してしまったことがある。その2つにはいろいろと相違点があり(2021年10月21日の日記を参照),さらに雑誌の広告に掲載されているものとも相違点がある。たとえば,雑誌の広告で見たものは全体が丸い形状のものであるが,入手したものはそうではない。入手した2つのうち1つには,サマータイムに関連する注意書きがあるが,もう1つにはない(2021年10月20日の日記を参照)。そうすると,「関式サロン露出計」には何種類のバリエーションが存在するのかが気になってしまう。古い雑誌に掲載された広告や,特許・実用新案に関する情報を参照した結果,初期型,新型,戦後型,IIA型,IIB型,IIIA型,IVA型,IVB型という8つのモデルがあり,そのうちIIB型については3つのバリエーションがあることがわかった。つまり,少なくともつぎのように10種類に分類できることになる。

形状モデル名おもな特徴発売時期
丸型初期型感光度目盛は,DINのみ。
裏面に,DIN,Sheiner,N.S.G.の換算表あり
1938年10月下旬
新型感光度目盛は,DINのみ。
地域の光度係数が3区分(南樺太や台湾などを含む)
1940年3月頃
戦後型感光度目盛は,DINのみ。
サマータイム対応
地域の光度係数が2区分(西南日本と東北日本)
1948年4月?
角型MODEL II-A感光度目盛は,DINとASA。
サマータイム対応
1950年10月頃
MODEL II-B感光度目盛は,ASAとDIN。
サマータイム対応
1951年9月頃
感光度目盛は,ASAとDIN。
サマータイム非対応
1952年4月頃?
感光度目盛は,ASAとWeston。
サマータイム非対応
1953年5月頃?
MODEL III-A感光度目盛は,ASAとWeston。
フラッシュ閃光時間目盛増設
1954年4月頃
MODEL IV-A 感光度目盛は,ASAのみ。
フラッシュ閃光時間目盛移設
1956年4月頃
MODEL IV-B 操作手順を示す番号が付記されている。 1959年3月頃

なお,形状の「丸型」「角型」は,ここで便宜的に使うものであり,公式に使われている語ではない。また,「丸型」のモデルについて,「新型」は当時の広告で使われていた文言であるが,「初期型」および「戦後型」はここで便宜的に使うものであり,公式に使われていた語ではない。
 戦後の角型の各モデルについて,モデル名の変更があるときは,(いまのところIVB型を除いて)特許や実用新案の出願にともなっているように見えている。そうではない変更や改良の場合は,モデル名を変更していないようである。そのため,IIB型については3つのバリエーションが存在しているようである。

このたび,あらたに関式サロン露出計IIA型を入手した。このモデルはすでに入手しているが,入手していたものには割れている箇所もある。このたび入手したものは,文字が全体に薄くなっていてつまみが1つ失われているが,反りがあまりひどくなく,割れた箇所もない。そんな状態のものがインターネットオークションに安価に出品されていたので,いちおう入札しておいたところ,競合者があらわれなかったものである。
 届いたIIA型を見て,どことなく違和感があった。以前に入手していたものと2つを並べてみたところ,あきらかに文字の大きさが異なっている。

文字の大きさの違いは,ムービー撮影時のコマ数をあらわす丸付き数字で比較するのがわかりやすいだろう。以前に入手していたものは,この丸の大きさが2mm未満であるのに対し,このたび入手したものは2mmを越えているのである。

そうなると,文字が大きいバージョンと小さいバージョン,どちらが先でどちらが後のものかが気になってくる。そこで,IIA型のつぎに発売されたIIB型のうち,さいしょのものと考えられる「サマータイム対応版」の文字と比較をしてみた。

IIB型で使われている文字も,丸の大きさが2mmをこえている。このことから,関式サロン露出計IIA型のうち,文字が小さいほうが先,大きいほうが後のものであると考えることができる。それぞれ,前期型,後期型ということになるだろうが,変更された時期を雑誌の広告などから追うことはできそうに思えない。雑誌に掲載された製品写真はどれもあまり大きなものではなく,印刷時の解像度も低いものであるため,たいていの場合,文字の有無くらいしか判別できないものである。なんと書いてあるかの予想がついている場合であれば,どんな文字が書いてあるかは判読できるかもしれないが,それでも文字の微妙な大きさの差を判別することは困難であろう。雑誌ではなく一般書籍であれば,すこしは印刷の品位が高い場合もあるが,掲載された製品写真から文字の大きさの違いを判別することが困難であろうことは,予想に難くない。
 関式サロン露出計IIA型の前期型と後期型の境界にあたる時期を絞りこむには,製品と取扱説明書とセットで入手する必要がある。そのようなサンプルをたくさん入手して,製品の文字の大きさと,取扱説明書の発行時期とを対応させていくのである。不可能ではないだろうが,実現はかなり困難であろう。これまでインターネットオークションを観察してきたかぎりでは,そもそも関式サロン露出計の出品は豊富という状況ではないし,取扱説明書とセットで出品されているケースは,せいぜい半数くらいであろうか。
 前期型と後期型とで,機能面での相違点や影響などはなさそうなので,とりあえずは無理に区別する必要はないだろう,ということにしておこう。


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