撮影日記


2023年12月24日(日) 天気:晴のち曇

世界初のCdS露出計はセコニックらしい

世間で「赤本」というと,教学社が発行する,大学入試問題の過去問題集(*1)をさす。しかし,いま,カメラ趣味者の間では「赤本」あるいは「赤い本」というと,昨年発行された「レッドデータカメラズ 昭和のフィルムカメラ盛衰記」(春日十八郎,インパクト出版会,2022)(*2)をさしているのではないだろうか。

この「赤い本」では,活動しなくなった日本のカメラメーカーの製品を紹介している。そのようなメーカーの1つとして,「サモカ」(三栄産業)が取り上げられている。サモカはいまではキヤノンの系列会社になっている(*3)が,1950年代は独立した会社として独自の広告を雑誌などに掲載していた。しかし,1960年代に入るとすっかり見かけなくなり,1960年3月に発行された,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.1でもその名前を見ることはない。しかし,この「赤い本」には,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.4(1961年3月発行)にだけ,「サモカ」の掲載があることが書かれていた。そして,該当ページがまるごと引用されていた。そして,そこには,スライドプロジェクタ「RC-300」型も掲載されていたのである。
 サモカのスライドプロジェクタ「RC-300」型は,電動でコマ送りができる,高機能なオートマチック式スライドプロジェクタである。ずっと昔からうちにあったが,「倒産した会社の試作品が流出したのを安く買った」と聞いてきた(2007年9月14日の日記を参照)。その後,広告など断片的な情報を見つけ,試作品ではなく製品として流通していたらしいことはわかった。
 そしてようやく,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.4を入手した。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」に掲載されていたことが確認できたことで,ようやく,仕様や宣伝文句,価格やオプション品などの存在も確認できるようになったのである。長い間,気になっていたことが,ひとつすっきりした。

入手した,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.4を眺めていると,ふと目に入ってきた文言がある。

「世界で始めて硫化カドミュム(CdS)を使用した露出メーター」として存在をアピールしていたのは,セコニックの露出計,「マイクロライト L-88型」というものである。しかし,それをすなおに受け取ることができない。ほんとうに,この露出計が世界初のCdS露出計だというのだろうか。そして,具体的にこれが発売されたのはいつのことであろうか。それがわかれば,ほかの露出計の発売時期と比較して,ほんとうに世界初のものなのかどうかを確認できるかもしれない。
 日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.4の発行は1961年3月となっており,「近日発売」という表現などがされていないから,SEKONIC Microlite L-88の発売がこれより前であることはわかる。国立国会図書館デジタルコレクションで検索したら,「重工業品輸出ガイドブック 1961年版」(通商産業省重工業局重工業品輸出課 編,1961)で,セコニックについて「昭和35年12月世界で初めて半導体硫化カドミウムを使用した超高感度メーター(略)を発売し」(*4)と説明されている文章を見つけた。これにより,「世界初のCdS露出計」を称するセコニック「マイクロライト L-88」の発売は,1960年12月としてよいだろう。

さて,そうなると気になるのは,GOSSEN Lunasixの具体的な発売時期である。国立国会図書館デジタルコレクションで検索するかぎり,「ルナシックス」という語が日本の雑誌や書籍にあらわれるのは,1962年になってからのようである。Lunasixの発売は1961年になってからのことなのか,単に日本に輸入されるようになったのが遅かっただけなのか,そのあたりがまだ確認できていない。

ところで,以前に露出計を大量にいただいたものの,まだ整理しきれていないものをさぐってみると,件のSEKONIC Microlite L-88が箱ととも含まれていたのを見つけた。

電池ボックスのなかで水銀電池が塩を噴いていたものの,接点を磨いて適当なボタン電池をセットすると,明るさに応じて針が振れた。「世界初のCdS露出計」は,まだ生きているようである。精度が維持されているかどうかはわからないが,CdS露出計はセレン光電池式露出計よりも,基本的に長生きなのかもしれない。

*1 赤本ウェブサイト (教学社)
https://akahon.net/

*2 「レッドデータカメラズ 昭和のフィルムカメラ盛衰記」 (インパクト出版会)
https://www.impact-shuppankai.com/products/detail/320

*3 沿革 (キヤノン化成株式会社)
https://kasei.canon/ja/corporate/history.html
1950年操業開始の三栄産業株式会社が,1961年にキヤノンの系列会社になり,1980年にキヤノン精工株式会社に社名を変更する。そして,1992年にキヤノンケミカル株式会社と合併して,キヤノン化成株式会社になる。

*4 「重工業品輸出ガイドブック 1961年版」(通商産業省重工業局重工業品輸出課 編,1961) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2527000/1/301


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