撮影日記 |
---|
2023年08月16日(水) 天気:晴1930年代の電気露出計 WESTON650きれいな写真を撮るためには,適切な露光を与える必要がある。そのための基準になる絞りやシャッター速度は,撮影にそうとうに慣れている人でなければ,簡単にはわからない。フィルムのパッケージやカメラ雑誌などに,晴天時,曇天時などにおける露出の基準が示されているのを利用する人もあっただろう。そのような知恵をコンパクトにまとめた「計算盤式露出計」というものも,いろいろ発売されてきた。日本国内で古くから発売されてきた計算盤式露出計として,「関式サロン露出計」(2022年4月12日の日記を参照)や「佐和式露出計算尺」(2022年2月6日の日記を参照)というものが有名である。 だれにでも簡単に露出の基準がわかるようになるのは,やはり,電気露出計の登場と普及を待つ必要があっただろう。明るさを感じる素子を利用し,明るさの違いを電気信号に変えて指針を振らせて,その指針がさす目盛を読み取ることで,露出の基準がわかるというものである。はじめて電気露出計が市販されたのは1930年代のことで,当時の書籍でも紹介されている。たとえば「アルス最新写真大講座 第3巻」(佐和九郎,1935年,アルス)では,「被寫體の方へ向けて光を当てれば指針が寫度を指すか或は簡単に換算すればよいのですから,最も簡單,最も迅速,使ひ方により差異を生じません。」と肯定的に説明している。一方で,「露出計を向けた廣い角度の範圍から露出計に届いた『照度』を指すやうになってゐる構造,随つて,被寫體の局處的の光度の強弱は不明…(略)…極めて狭角度からの照度を測られるやうにならないかぎり,その指示,必ず正確と保證することは出來ません」のように批判的な面も書いている(*1)。これは,この書籍の著者が「佐和式露出計算尺」をアピールしたい佐和九郎氏だという事情もあるだろうが,現代でも露出計を使うときの基本的な注意点として意識しておく必要のあることではある。 いつもお世話になっている方から,また,大きな荷物をお送りいただいた。 世界ではじめて市販された写真撮影用の電気露出計は,1932年のWeston 617のユニバーサル型であるとされている。これは,背面に2つの受光素子をもち,表面の中央に指針が配置されたものになっている。その後,いつくかのモデルの発売を経て,Weston 650が発売された。Weston 650としてもいろいろなモデルが発売されているが,このたび入手したものは感度の設定がWestonのスケールの64までなので,Weston 650のいちばんはじめのモデルである,「ユニバーサル型のスモールポインタモデルの最初期型」ということになる。これは1935年に発売されたものとのことなので,電気露出計としてかなり早期のモデルということになる(*2)。残念なことに故障しているようで,明るいところに置いていても指針は動かない。 「アマチュア写真講座 第1巻」(佐和九郎,1936年,アルス)は,Weston 650が発売された当時に日本で発行された書籍である。前年に発行の「アルス最新写真大講座 第3巻」では電気露出計に対してやや厳しい見方をしていた佐和九郎氏の著作であるが,「…アメリカのウエストン會社の發賣した新しい電氣露出計。従來,賣つていた617−IIに比べると,感度が遙かによくなつた。」(p.272-273)(*3),「簡明,正確そして間違ふ惧れの甚だ少ないところが長所であろう。」(p.274)(*4)とかなり好意的に評価をしている。
*1 「アルス最新写真大講座 第3巻」(佐和九郎,1935年,アルス)p.234-235 (国立国会図書館デジタルコレクション)
*2 Weston All The Meters - and Chronology
*3 「アマチュア写真講座 第1巻」(佐和九郎,1936年,アルス)p.272-273 (国立国会図書館デジタルコレクション)
*4 「アマチュア写真講座 第1巻」(佐和九郎,1936年,アルス)p.274-275 (国立国会図書館デジタルコレクション)
*5 「アマチュア写真講座 第1巻」(佐和九郎,1936年,アルス)p.260-261 (国立国会図書館デジタルコレクション) |
← 前のページ | もくじ | 次のページ → |