撮影日記


2023年03月31日(金) 天気:晴

組立暗箱の木製三脚

三脚は,カメラを固定するために使われる道具である。だから重くて丈夫なものほど,その目的に合致する。とはいえ,機材を持ち運ぶことを考えれば,いくら重くても問題ないというわけにはいかない。まとめて言いかえれば,「三脚は,財力と体力が許すかぎり,大きく重いほどよい」ということになる。また,適切な三脚の大きさは,そこに載せるカメラの大きさとのバランスも関係する。大きく重いカメラやレンズをか細い三脚に載せたのでは,カメラを固定するという目的を達することはできない。逆に,大型三脚にコンパクトなカメラを載せるのは,カメラを固定するという目的にはじゅうぶんであっても,不格好であり,コンパクトなカメラの取り回しのよさをスポイルすることになる。ともかく,大きなカメラは大きな三脚に載せたい。
 一般的にカメラの底面には,三脚に固定するためのネジ穴がある。ところが,組立暗箱には,そのネジ穴のないものが少なくない。底面にネジ穴がなく,そのかわりに回転する金具が取り付けられているものが一般的である。このような組立暗箱では,どんな三脚をどのように取りつけて使っていたのであろうか。

 組立暗箱という形態のカメラが多く流通していたのは,明治時代から昭和初期にかけてのことである。たとえば,明治時代の浅沼商店(現在の浅沼商会)のカタログ「写真版及石版器具材料図解目録 」(*1)には,何種類もの組立暗箱が案内されている。
 組立暗箱は,どちらかというと営業写真家が使うものであり,一般のユーザが使うものではなかったようである。たとえば,朝日新聞社が発行する「アサヒカメラ」やアルスが発行する「カメラ」など,一般のユーザの読者が多い雑誌では,組立暗箱の広告はあまり見られない。それに対して,オリエンタル写真工業が発行にかかわっている「フォトタイムス」という雑誌は,どちらかというと営業写真家をおもな読者として考えていたとされている。そのためか,組立暗箱の広告を見かけることがある。また,「アサヒカメラ」やアルス「カメラ」などでも,中古品を扱っている販売店の広告には,組立暗箱の在庫があることが書かれているケースがある。
 それらの広告を眺めると,組立暗箱には「取枠3枚,3折三脚付属」となっているものが一般的であることがわかる。

組立暗箱用の木製三脚を入手した。このようなタイプの三脚は,組立暗箱の底面にある回転金具に,脚を1本ずつ取りつけて使うようになっている。
 三脚の脚は,折りたたまれた状態になっている。折りたたんだ状態は,約55cmある。これを組立暗箱に取りつけるために,まず外側を左右に開く。 

開いた先には,突起がある。ここが,組立暗箱の底面にある回転する金具にはまるようになっている。

側面のネジをゆるめると,中央の脚を伸ばすことができる。このように,3つの部分に分かれているタイプのものが,「3折三脚」である。

 1つ1つの脚は細く,素材の木材はしなる。また,脚の開きをロックするような機構もない。つねにぶらぶらした状態なので,これでカメラが安定するのかどうか不安になる。しかしかつては,これが実用的に使われていたはずだから,実際に使い心地を試してみることにする。
 サクラは満開をそろそろ過ぎようとしているが,まだまだじゅうぶんみ見ごたえがある状況だ。
 カビネサイズの組立暗箱に取りつけて,脚を伸ばす。脚を適当に開くと,カメラ本体が軽いこともあって,思ったよりも安定している。1本1本の脚が自由に開くので,カメラの高さや傾きなどの細かい調整は,思ったよりもやりやすい。一見するとたよりなさそうな三脚であるが,組立暗箱での撮影において,じゅうぶんに実用的であることが確認できたわけである。

no name camera, FUJINON W 150mm F5.6, FUJIBRO WP FM2

 この組立暗箱は無銘のものであるが,ほとんど使っていないきれいな状態である。そして,三脚のネジ穴がなかったので,これまでまったく使えていなかった。実用的な三脚を入手できたので,ようやく使えるようになったのである。
 なお,フィルムのかわりに印画紙を使って撮影した。コンパクトで軽量なので,これからは出番も増えるだろう。いま世間では,フィルムそのものが入手しにくくなっているようだが,印画紙はそれなりの数を確保している。

*1 「写真版及石版器具材料図解目録」(浅沼商店,1899(明治32)年2月) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/853976/1/32


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