2022年12月11日(日) 天気:くもり
FUJIX DS-220Aの謎
FUJIX DS-220Aというデジタルカメラを入手した。640ピクセル×480ピクセルの画像として記録するもので,いわゆる「35万画素級」とされるコンパクトデジタルカメラである。インターネットオークションなどでときどき見かける製品なので,そんなに珍しいものではない。
ところが,このカメラの発売年月や特徴などの情報が,思ったように見つからないのである。
たとえば,富士フイルムのニュースリリースで公式の発表を調べようとすると,FUJIX DS-220という機種のものはすぐに見つかる(*1)。そして,発売が1995年11月21日であることが,確認できる。おもな仕様や用意されているオプション品なども,あわせて確認できる。そして,このFUJIX DS-220をマイナーチェンジしたものがFUJIX DS-220Aという機種のように思えるが,このDS-220Aに関するプレスリリースが見つからないのである。
つぎに,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」を参照する。
1996年3月発行のvol.111と1996年5月発行のvol.112に,「FUJIX デジタルカードカメラDS-220 NewDIJE」が掲載されている。しかし,この前のvol.110を参照しても,この後のvol.113などを参照しても,FUJIX DS-220Aは掲載されていない。
さらに,日本カメラ「カメラ年鑑」を参照する。
1995年12月発行の1996年版には,前モデルである「フジックス デジタルカードカメラDS-200F DIJE」が掲載されており,この本が発行される直前にあたる1995年11月に「フジックス デジタルカードカメラDS-220 DIJE」が発売されたことが記されている。この点は,富士フイルムのプレスリリースとも整合しているので,間違いないだろう。ただ,「カメラ年鑑」では,「New DIJE」ではなく単に「DIJE」となっている。これは単純な記載漏れだろう。
さらに,1996年12月発行の1997年版を参照すると,「フジフイルム New DIJE DS-220A」が掲載されている。説明文を読んでも,DS-220との違いなどはなにも書かれていない。発売期日が「1995年12月」となっており,DS-220の「1995年11月」とは異なっているので,DS-220AはDS-220よりもあとに発売された機種であることは,間違いないと思われる。
つぎに,Web上に関連する情報が残っていないかを調べる。
DS-220とDS-220Aとの違いについて述べているWebページとして,「Digitalkamera Museum」というWebサイト内のページが見つかる。そこのFUJIX DS-220Aの説明によると,DS-220からの変更点は3つあり,「ビデオ出力端子の信号の変更」「ハンディトランスミッタHT-220への対応」「広角コンバータWL-D2への対応」が示されている。また,「DS-220Aではシリアル接続端子が設けられた」という説明がWeb上に流通していることについて,「DS-220にも拡張コネクタとして存在していた」として否定している(*2)。
日本語で書かれたWebページとしては,「デジカメ比較レビュー」というWebサイト内の「デジタルカメラの歴史 第2回 勃興期 1996年」というページがある。DS-220Aでの変更点として,「映像出力をビデオ出力に」と「WL-D2にも対応」の2点をあげている(*3)。
そのほか,「エーアイムック デジタルカメラのすべて」(エーアイ出版,1996年)という書籍に,「DS-220にシリアルポートをつけたものがDS-220A」という内容の説明があるということを教えていただいた。
ここで示されている相違点は,「シリアルポートの有無」「ビデオ出力の信号」「ハンディトランスミッタへの対応」「広角コンバータへの対応」という4点になる。
「シリアルポートの有無」については,「エーアイムック デジタルカメラのすべて」で明確に指摘しているのに対し,「Digitalkamera Museum」では明確に否定している。その裏付けとして,DS-220の取扱説明書(ドイツ語版)とDS-220Aの取扱説明書(日本語版)のシステムアップ機器の構成図を並べて,どちらにも「インタフェースセット IF-D22/PC」が用意されていることがわかるようにしている(*2)。つまり,シリアルポートの有無は,DS-220とDS-220Aとの相違点ではない。
DS-220Aでシリアルポートが設けられたとする誤解が生じた理由は,つぎのように考えられる。まず,DS-220発売のプレスリリースにおいて,「記録された画像をPCカードスロットに差し込むだけでパソコンで利用できます。」ということがDS-220の特徴の1つとしてアピールされている(*1)。また,オプション品のリストに「インタフェースセット IF-D22/PC」は記載されていない。
一方,日本カメラ「カメラ年鑑」1997年版での「フジフイルム New DIJE DS-220A」の説明には,「シリアルインターフェースによる通信」がつけくわえられている。DS-220ではシリアル接続端子のことはまったくアピールされておらず(ただし,存在しないとも明記されていない),DS-220Aではシリアル接続端子のことを紹介しているのだから,この情報だけを見ていたら,シリアル接続端子がDS-220Aで新設されたと判断するのはしかたのないことだろう。ともかく,この点については,「エーアイムック デジタルカメラのすべて」の記述は誤っていると判断できる。
「広角コンバータ」については,「Digitalkamera Museum」と「デジカメ比較レビュー」のどちらでも,DS-220Aから対応したように書かれている。しかし,DS-220発売のプレスリリースにおけるオプション品のリストには,「ワイドコンバージョンレンズ WL-D2」は掲載されているので,DS-220でもこれに対応していたはずである。「Digitalkamera Museum」でこのような誤解が生じた理由としては,DS-220の取扱説明書(ドイツ語)の専用アクセサリーの図に,WL-D2が記載されていないことが考えられる。ともかく,この点については,「Digitalkamera Museum」と「デジカメ比較レビュー」の記述は誤っていると判断できる。
ビデオ出力信号の違いと,ハンディトランスミッタHT-220への対応については,実際にDS-220やオプション機器を入手して動作させてみないと,確認ができそうにない。
ともかく,DS-220とDS-220Aとの相違点は,あまり目立たないもののようである。それでも,富士フイルムがDS-220Aのモデルチェンジについてのプレスリリースを出し,そこで改良点などを明記してくれていたら,なにも問題はおこらないのである。プレスリリース等でDS-220Aの改良点をアピールするどころか,DS-220からDS-220Aにモデルチェンジしたことを隠蔽しようとしているのではないか,という印象をもってしまうくらいである。
もし,DS-220とDS-220Aとを実際に使いくらべることができたとしても,DS-220Aのモデルチェンジをアピールしなかった事情についてはわからないかもしれない。
なお,入手したFUJIX DS-220Aは無事に動作し,撮影ができることも確認できた。
FUJIX DS-220A
*1 パソコン専用CCD・ATA準拠PCカード採用 マルチメディアに応える高画質・スペックを搭載 フジックスデジタルカードカメラ「DS-220」“ニューDIJE(ディジェ)”新発売 (富士写真フイルム株式会社 1995年11月1日)
→https://www.fujifilm.co.jp/news_r/nrj040.html
*2 Fujix DS-220A (1996) (Digitalkamera Museum das Original!)
→https://www.digitalkameramuseum.de/en/cameras/item/fujix-ds-220a
*3 デジタルカメラの歴史 第2回 勃興期 1996年 (デジカメ比較レビュー monoX)
→http://www.monox.jp/history/digitalcamera-history-02.html
|