撮影日記


2020年10月14日(水) 天気:はれ

Kodak DCS 200は復活するか?

Kodak DCS 200を保護することができた。
 これは,Nikon F-801シリーズのカメラと組み合わせることで,デジタル一眼レフカメラを実現するユニットである。このたび入手したものはデジタル部分のユニットのみだったので,手元にあったNikon F-801のボディと組み合わせた。

1990年代における初期のデジタル一眼レフカメラは,ほぼKodakの独壇場であったと言える。1991年に発売されたKodak DCS 100は,Nikon F3の裏蓋部分に撮像素子をおき,データを記録するユニットとケーブルで接続されたものだった。つづいて1992年に,Kodak DCS 200が発売される。これは,市販されたデジタル一眼レフカメラとして,はじめてデータ記録部とカメラ部とが一体化されたものである。そして,Kodakは2004年まで,多くのデジタル一眼レフカメラや,中判カメラ用のデジタルバックなどを出荷していった。
 次の表は,そのうちニコンFマウントレンズを使用するデジタル一眼レフカメラについて,まとめたものである。

機種 特徴
1991 DCS 100 Nikon F3を利用。データ記録部は別ユニットで,本体とケーブルで接続。
1992 DCS 200 Nikon N8008 (F-801)を利用。HDD内蔵モデルは,はじめての一体型デジタル一眼レフカメラ。
1994 DCS 400シリーズ Nikon N90 (F90)を利用。DCS 460は一体型としてはじめての600万画素モデル。記録メディアはPCMCIA規格で着脱式。
1998 DCS 300シリーズ Nikon PRONEA 6i (600i)を改造。
1999 DCS 600シリーズ Nikon F5を改造。カラー液晶モニタを内蔵。電源がバッテリーパック化。
2001 DCS 700シリーズ DCS 600シリーズの改良型。処理速度の向上と価格の低下を実現。
2002 DCS Pro 14n Nikon F80をもとにした独自のボディ。ライカ判サイズのCMOSイメージセンサを採用。
2004 DCS Pro SLR/n DCS Pro 14nの改良型。Kodak DCSデジタル一眼レフカメラとしての最終モデル。

1994年に発売されたKodak DCS 460は,一体型のデジタル一眼レフカメラとしてはじめて,600万画素の撮像素子を使用したものとなった。同時に,150万画素撮像素子をもった下位モデルKodak DCS 420やDCS 410などもラインアップされ,これらDCS 4**シリーズの出荷台数は5000台以上とされている。 この数値は,Kodak DCSシリーズの設計にかかわったJim McGarvey氏が記録した文書("The DCS Story")に記されたものであるが(2019年11月4日の日記を参照),実際にインターネットオークション等で見かける製品のシリアルナンバーを観察すると,12000台くらいは流通しているのではないかと思われる(2019年11月3日の日記を参照)。
 それに対して,Kodak DCS 100は987台,Kodak DCS 200は3240台と,かなり少ないものになっている。また,Kodak DCS 4**はいちおう日本国内でも発売されたようだが,Kodak DCS 100やDCS 200にはそのような形跡はない。そのせいか,Kodak DCS 4**はインターネットオークションなどでたまに見かけるのに対し,Kodak DCS 200を見かけることはごく稀となっている。
 このたび入手したKodak DCS 200は,思ったよりも安価に落札することができた。数箇月前に海外のインターネットオークションサイトで見かけた価格の1/10ほどである。ただし,そちらは外見もきれいなもので正常に動作していることをうかがわせる画像も添付されていたが,こちらは見ての通り外見の傷みが激しいもので,動作確認もされていないという。価格相応なものである。

Kodak DCS 200は,いまとなってはかなり貴重な存在だと思うので,「動かなくてもいい」と考えて落札した。とはいえ,動くかどうかの確認は,ぜひしておきたい。
 まず,気がかりなのは,電源である。Kodak DCS 4**は,Ni-Cdの組電池が内蔵されていた。そのため古くなって腐蝕した電池が基盤を侵し,動作が困難な状況になっている例が少なくない。そして,入手したkodak DCS 200では,電池が入っていそうな場所はネジが腐蝕しており,ボディの塗装も剥げ落ちている。中で電池が腐蝕しているような,嫌な気配である。

意外なことに,なかから出てきたものは,電池ボックスであった。単3型の電池を6本いれられるようになっている。電池を抜きやすくできているせいか,電池が腐蝕して内部を傷めたような跡はない。とりあえず,手元にあった電池を入れてみたところ,回路はまだ息をしているように思われる。

このように表示が乱れるのは,電池の電力が不足していることをあらわすものと考えられる(2016年1月14日の日記を参照)。あとで,じゅうぶんに充電したNi-MH電池を装填したところ,カメラは無事に起動した。
 Kodak DCS 200には,いくつかのバリエーションがある。そのうち,DCS 200cおよびDCS 200ciというものがカラーモデルで,そのうちDCS 200ciのほうは記録メディアとしてハードディスクドライブが内蔵されたものである。

起動したのでカメラをレリーズしたところ,ハードディスクドライブが動き出したような音が聞こえてきた。ここまでの動きは,問題なさそうである。しかし,しばらくするとディスプレイにはE2のエラーが表示された(E2 indicates failure of the disk to start (*1))。残念ながら,内蔵されているハードディスクドライブが故障しているようである。

内蔵されているハードディスクドライブは80MBのものだが,SCSIタイプのため,Windowsパソコンなどで使われているIDEタイプのハードディスクドライブを流用することができない。ずっと以前に入手した,Libretto 20でハードディスクドライブのかわりにCFカードを使うためのアダプタ(2010年1月10日の日記を参照)が流用できれば,記録した画像を転送する問題も解消するのだが,もちろんこれも使えない。なお,SCSIタイプのハードディスクドライブのかわりにCFカードやSDカードを使うアダプタも売られているようだが,ちょっと試しに手を出すには,少々敷居の高い価格が設定されている。

残念だが,今のところは,ここまでだ。ちょうどあうハードディスクドライブとの「よい出会い」を期待することにしよう。それまで,復活に関しては塩漬けの案件となる。

さて,Kodak DCS 200と,Kodak DCS 4**とをくらべてみたとき,外見はよく似ている。しかし,細かいところはずいぶんと異なっている。

まず,先述のとおり,使用する電池が異なる。Kodak DCS 4**では8本のNi-Cd電池を組んだものが内蔵されていたのに対し,Kodak DCS 200では6本の単3電池を電池ボックスに装填して使うようになっている。"The DCS Story" (p.21)では「AA NiCd」と表現されているので,アルカリ乾電池ではなくNi-Cd電池の使用が想定されていたようである。また,Kodak DCS 4**ではデジタル部からカメラへ電源を供給するようになっていたが,Kodak DCS 200では,デジタル部とカメラ部の電池は独立している。
 言いかえると,Kodak DCS 200は,世界初の「単3電池で使えるデジタル一眼レフカメラ」ということになる。ただし,カメラ部に4本,デジタル部に6本で,合計10本の単3電池が必要になる。

つぎに,組み合わせて使うカメラが異なる。Kodak DCS 4**ではニコンF90シリーズのカメラと組み合わせていたが,Kodak DCS 200ではニコンF-801シリーズのカメラと組み合わせて使う。Kodak DCS 4**ではニコンF90シリーズの特徴でもある10ピンターミナルとケーブルで接続するが,Kodak DCS 200はデータバック用の端子を利用してデジタル部とカメラ部とを接続する。

先述のように,内蔵のハードディスクドライブが故障しているため,撮影できる状況にはなっていない。復活への道は,まだ険しく,見通しもよくない状況である。その点は残念であるが,貴重な存在となっていると思われるKodak DCS 200を確保できたこと,そして,たまには実用しているKodak DCS 4**との相違点などが確認できたことについては,じゅうぶんに満足している。

*1 KODAK Professional DCS 200 Digital Camera User's Manual (6-42) (Eastman Kodak Company)
https://archive.org/details/KodakDCS200Chapters14/Kodak%20DCS%20200%20Chapters%205-7/page/n79/mode/2up (*Internet Archives)


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