2017年04月18日(水) 天気:晴
現像インフラはいつまで… いまさらポジフィルムで撮る,たった1つの理由
久しぶりに,ポジフィルムの現像を依頼した。今月になってから撮ったフィルムもあるが(2017年4月5日の日記を参照),昨年秋に撮影したフィルムも含まれている(2016年11月5日の日記を参照)。
この半年の間には,元コダック系のラボ「シグマ広島」とフジ系のラボ「フジカラー広島中央」とが合併するという話があった(2016年12月6日の日記を参照)。合併後,現像を依頼するのは今回がはじめてということになる。
現像を依頼したものは,思ったよりも早く納品された。いつものようにマウント作業をおこない,このあと撮影日などをマウントにメモ書きして,片づけることになる。
久しぶりに,ラボの人とお話しをさせていただいた。そこから見えてくるのは,かなり厳しい現状である。
「シグマ広島」は,自社での現像処理を終了した後(2011年1月19日の日記を参照),受け付けたフィルムを東京の「堀内カラー」へ外注するようになっていた。その「堀内カラー」が,3月までで現像処理をやめた(*1),というのである。「シグマ広島」は「フジカラー広島中央」への業務移管にあわせるように,外注先を「堀内カラー」から大阪のフジ系の現像所に送るようになったそうである。現像処理の納品が思ったよりも早かったのは,送り先が東京から大阪にかわったせいだろうか。
「(もし,キタムラが高松での現像をやめているならば)ポジフィルム(リバーサルフィルム)の処理をしているのは,西日本では大阪の1件だけ」という状況らしい。それに関するお話しによれば,現像所がつぎつぎに減っている背景として,どこの現像所でも機器の老朽化がすすんでいることがある。現像機器の製造がすでに終了しており,そのメーカーも撤退して補修部品がない状況になっている。幸か不幸か,メンテナンスの必要な個所はコンピュータの部分ではなく,つりさげたフィルムを動かす装置部分の割合が高いそうだ。現状では,汎用の部品を利用して,なんとか動かすことができている。しかしこのままでは,いつ機械に大きな問題が発生して,受けた仕事を処理できなくなる事態にならないともかぎらない。深刻な状況に陥らないうちに撤退を決断した,ということのようである。
以前にくらべればフィルムの消費は激減しており,業界全体で,利益が出にくくなっているという状況もある。「フジカラー広島中央」でのネガフィルムの処理状況を聞くと,ひと昔前の街なかにある「○○カメラ店」のようなDPE取次店1件の受注本数と比較できそうなレベルである。
コダックが撤退した後も,ポジフィルムの現像処理薬品はフジが供給をつづけている。しかしながら,処理するための装置が維持しにくい状況になっている。経営に関する用語で,「残存者利益」(競合者が撤退した後に残った者が市場を独占する状況)というものがある。写真業界は大手から末端に至るまで,そのような状態になりつつあるようだ。「堀内カラー」も,コダクロームの現像をさいごまで引き受けていたことで「残存者利益」を得たようだが,それとていつまでも得られるものではなかった(だからこそ,他者が撤退していったのだろうから)。
フィルムが使えなくなる日は,ユーザの消費量が減るという状況が直接的にはたらくだけでなく,それによってさまざまなインフラ部分が支えきれなくなることによって訪れることになるのだろうか。大量のフィルムを使用していた業界として,映画,医療,印刷などがあげられると思うが,いずれもディジタル化が徹底的にすすんでいる。映画をフィルムで撮ることが見直されるという動きもあるようだが,そこで使用されるのはポジフィルムではなくネガフィルムだ。カラーポジフィルムでの撮影が楽しめるのは,いまのうちだけかもしれない。
フィルム,とくにポジフィルムで撮影することの魅力はなんだろうか。
それは,撮った画像が,そのままそこに「モノ」として存在することである。
ネガフィルムで撮影した場合は,色あいや濃度などを変えることができるプリントという行程を通して,鑑賞できる画像を得ることができる。それに対してポジフィルムの場合は,とりあえずそこに完成品が存在する。
これが,私がポジフィルムの撮影を楽しみたい,たった1つの理由である。
「フィルムはディジタルよりも発色がよい」「フィルムは階調が豊か」などは,「ポジフィルムでなければならない」という理由にはならない。透過光の発色はディジタルのほうが,豊かな階調はネガフィルムのほうが,有利であろう。むしろ,「ポジフィルムで撮ると,(昔の)プロみたいでカッコイイ」というほうが,「ポジフィルムでなければならない」理由になり得る。
ポジフィルムで撮った写真をそのまま鑑賞するには,やはり6×9判以上のサイズがほしいのである。できれば,4×5判を使いたいのである。
*1 カラーリバーサルフィルム現像処理の終了および外部委託のお知らせ (株式会社 堀内カラー)
→http://www.horiuchi-color.co.jp/news/#news294
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