撮影日記


2014年3月3日(月) 天気:晴れ

「半・裁判」じゃないよ,「半裁・判」だよ

かつてはよく使われていたが,最近ではほとんど使われなくなった規格のフィルムとして,127フィルムというものがある。裏紙とともにフィルムがスプール(軸)に巻き取られたロールフィルムの1つで,中判写真によく使われる120フィルムをそのまま小さくしたようなものだ。127フィルムでの標準的な画面サイズは,6.5cm×4cmの「ベスト判」と呼ばれるもので,127フィルムは「ベストフィルム」と呼ばれることもある。127フィルムはカメラの小型化に寄与したようで,120フィルムを使うフォールディングカメラ(蛇腹がついた折り畳み式のカメラ)や二眼レフカメラをそのまま小さくしたようなカメラが多く発売された。そういう事情もあってか,127フィルムを使うカメラには一定のマニアがおり,フィルムも細々とだが供給が続いている状態である。ただし富士フイルムやコダックはすでに127フィルムの製造を終了しており,クラシックカメラの専門店のようなお店などでなければ127フィルムは入手しにくくなっている。

120フィルムの標準的な画面サイズは「ブローニー判」とも呼ばれる6cm×9cmのものだが,それ以外に6cm×7cm,6cm×6cmや6cm×4.5cmといったサイズで使われることもある。いやむしろ,いまは6×9判はあまり使われておらず,それ以外のサイズのほうが一般的だろうか。
 127フィルムも,標準的な画面サイズである6.5cm×4cmの「ベスト判」のほか,4cm×4cmや3cm×4cmといったサイズで使われることがある。3cm×4cmはベスト判を半分にしたものということで,「ベスト半裁判」と呼ばれる。
 「ベスト半裁判」は,「べすとはんさいばん」と読む。「半裁」とは「半分に切る」という意味で,「判」は紙などの大きさを示す。「ベスト」を「半裁」した「判」ということで,決して「ベスト」の「半」分の「裁判」ではない。だが「半裁」という表現に慣れていなければ,「半裁・判」をついつい「半・裁判」と読んでしまい,「裁判の半分ってどういうこっちゃ?」となるのである。
 辞書を見れば「半裁(はんさい)」は「半截(はんせつ)」を慣用的に「はんさい」と読むところにあてられた漢字であるとのこと。誤解を防ぐことも含めて「ベスト半截判」と書くのがよいのだが,残念ながら「截」は常用漢字に含まれていない。その結果,「半裁」という表記が主流になっている。実際,古い雑誌等では「ベスト半截」という表記が使われる。たとえばこれは,「アサヒカメラ」昭和12年7月号に掲載されていた,オプトクローム社の広告の一部である。

「ベスト半截」という表記がいつから使われているかは,はっきりしない。手元にある古い雑誌のうち,「アサヒカメラ」昭和4年2月号では記事や広告に「ベスト判截」という表記を見つけることができなかった。アルスの「カメラ」昭和8年2月号では,「ベスト半截」という表記は見つけられなかったが,「ベスト判以下の小型原板の修整」という記事中で「3×4糎判」という表記を見つけることができたので,ベスト半裁判のカメラはすでに普及していたことは間違いない。「アサヒカメラ」昭和12年7月号の「新しい機械と材料」で取り上げられている「ベビーセミファースト」についての記事で,「…カメラの名稱の場合,ベビーはベスト半截。セミはブロニー半截といふ意味で呼ばれるのが普通…」と使われているので,このときには「ベスト半截」という表現はほぼ定着しているとみなしてよいだろう。ところで「ベビーセミファースト」は,ベスト半裁判ではなくセミ判カメラのようだ。この記事の続きでは,「ベビー」と「セミ」の両方がついたこのカメラの名称を「カメラの名稱だけに一寸奇異な感じがします」と書かれている。こういうあたりも,古い雑誌を眺めて楽しいところだ。
 ともかく3月4日は,画面サイズにちなんで「ベスト半裁判の日」なのである。
 昨夜は120のNEOPAN 100 ACROSをカットして,127フィルム1本と,110カートリッジフィルム2本を作成し,明日の撮影に備えることにしたのだった。


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