撮影日記


2013年02月10日(日) 天気:晴

コンパクトカメラに
「超」望遠レンズは必要だったのか?

2013年に入手したカメラ,1台目は「Rollei Flash35 AF」だった(2013年2月4日の日記を参照)。じつは同時に,その隣にあったカメラも救出している。

「Canon Autoboy180」という,コンパクトカメラである。このカメラの特徴は,その名称にもある「180」だ。なにが「180」かといえば,搭載されたズームレンズの望遠側の最長焦点距離が180mmということである。一眼レフカメラなら,300mmまでカバーする高倍率ズームレンズやWズームレンズセットがすでに一般的になっていたから,180mmといってもたいした焦点距離ではないと感じるかもしれない。また,現在であれば,コンパクトディジタルカメラでライカ判の300mmに相当する以上の焦点距離をもつズームレンズを搭載している例も,珍しくない。だが,一眼レフカメラやコンパクトディジタルカメラには,撮影時におけるパララクスの問題がない。パララクスの問題を無視できないコンパクトカメラでは,180mmという望遠レンズはかなりの「超望遠レンズ」になるのだ。同様にパララクスを無視できない,いわゆるレンジファインダーカメラ(ビューファインダーシステムカメラ)では,180mmという「超」望遠レンズは,カメラに内蔵されたファインダーや距離計を使って撮影するレンズではなく,オプション品のミラーボックスを使って,一眼レフカメラのようにして使うものだったのである。ともあれ,コンパクトカメラで180mmというのは,使うにあたってもそうとうな「無理」が発生するものと思うが,少しでも焦点距離が長いレンズを搭載しているほうが商品をアピールしやすいことは容易に想像できるのである。

180mmともなれば,カメラブレにはそうとう気をつかわねばならない。何段にも伸びる細い鏡胴に,明るいレンズが搭載されているはずもない。しかもこのカメラは,ピントあわせのときにこの鏡胴が伸縮するのである。鏡胴の先をもってカメラをささえることができない。三脚が必須といえる,そんなカメラなのである。コンパクトカメラに,ここまでの望遠レンズを搭載する必要があるのかとほんとうに疑問に思うところである。

さて,コンパクトカメラに搭載されたレンズの焦点距離は,どのように長くなっていったのだろうか。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」の各年度版において,長い焦点距離のレンズを搭載したものをまとめてみた(前年度と差がない場合は省略)。なお,ここでいう「コンパクトカメラ」は,フラッシュを内蔵した「ピッカリコニカ」以後の,35mm判フルサイズのレンズシャッターカメラを指すものとする。

「カメラ総合カタログ」各年度における
コンパクトカメラ搭載レンズの焦点距離
年度(vol.)カメラレンズ備考
1975(vol.54)コニカ C35 EF38mm F2.8ゾーンフォーカス
1978(vol.61)キヤノン A35デートルクス40mm F2.8二重像合致式距離計連動
1979(vol.64)フラッシュフジカズームデート37mm-55mm F3.8目測式
1980(vol.69)キヤノン A35デートルクス40mm F2.8二重像合致式距離計連動
1982(vol.73)キヤノン オートボーイスーパー (AF35ML)40mm F1.9SST方式AF
1986(vol.85)コニカ 望遠王 (MR.70)38mm F3.2/70mm F5.82焦点レンズ
1987(vol.88)ペンタックス ズーム7035mm F3.5-70mm F6.7アクティブAF
キヤノン,コニカ,リコーから70mmの2焦点レンズカメラあり
1988(vol.91)オリンパス IZM30038mm F4.5-105mm F6パッシブAF
1990(vol.98)ペンタックス ズーム105スーパー38mm F4-105mm F7.8アクティブAF
オリンパス,フジからも105mmのカメラあり
1992(vol.103)フジ ズームカルディア300038mm F4.4-115mm F8.9アクティブAF
1993(vol.106)キヤノン JET13538mm F3.2-135mm F83点アクティブAF
1995(vol.110)ペンタックス ESPIO14038mm F4.1-140mm F10.25点パッシブAF
1996(vol.111)ペンタックス ESPIO16038mm F4.5-160mm F125点パッシブAF
1999(vol.115)ペンタックス ESPIO20048mm F5.1-200mm F135点パッシブAF
2004(vol.120)ペンタックス ESPIO170SL38mm F5.6-170mm F12.85点パッシブAF
2005(vol.121)キヤノン オートボーイ18038mm-180mm3点パッシブAF
2007(vol.123)オリンパス μ-III 15037.5mm F5.1-150mm F13.3パッシブマルチAF
2008(vol.124)フジ ズームデート7035mm 70mmAF

コンパクトカメラに「望遠レンズ」が搭載されるようになるのは,1986年の「コニカ望遠王」あたりからといえるだろう。その後,2焦点レンズからズームレンズにかわり,その望遠側の焦点距離は少しずつ伸びていく。その流れの先頭にいたのは,おもにPENTAXだったように見える。
 結局,コンパクトカメラに搭載された最長のレンズは,PENTAX ESPIO200の200mmということになるようだ。Canonの180mmは,それに次ぐものとなる。もっともPENTAXのほうは短焦点側が48mmといわゆる標準域からのズームレンズなのに対し,Canonはやや広角気味の38mmからのズームレンズとなっているので,Canonのほうが実用的だといえるだろう。PENTAXも,ESPIO200のあとは,38mmからのESPIO170SLに自制しているようだ。
 Canon Autoboy180のあと,フィルムのコンパクトカメラは,各社のラインアップから姿を消していく。

世の中には,「高級コンパクトカメラ」とよばれるカメラがある。「高級」かそうでないかについて,とくに基準があるわけでもないから「言ったもん勝ち」だとは思うが,多くの人が「高級コンパクトカメラ」であると認めるものには,ちょっとした共通点がある。とくに,1990年代以降に「高級コンパクトカメラ」と呼ばれるようになったものに見られることであるが,1つは,ボディの外装が金属,それもチタンを採用していることがある。これによって,見た目にも,またボディの頑丈さにおいても,「高級」と認められるということだろう。さらに,「高級」ではないコンパクトカメラに搭載されているものよりも,「よい」とされるレンズが搭載されており,写りの面でも「高級」と認められようとしている。さらにそのレンズには,高性能レンズの代名詞ともいえるような名称を冠されていることもある。
 上記のことに合致する「高級コンパクトカメラ」としては,まず,「CONTAX T2」以降のコンタックスTシリーズがある。その後,「MINOLTA TC-1」,「Nikon 35Ti/28Ti」,「Konica HEXAR」,「RICOH GR-1」などが続く。各社から「高級コンパクトカメラ」が発売されたなかで,なぜかキヤノンからは「高級コンパクトカメラ」に分類されそうなカメラが発売されなかった。キヤノンは,流行に流されなかった,ということか。
 「高級コンパクトカメラ」の流行には流されなかったようだが,コンパクトカメラの「超望遠レンズ」の流行には,流されたようだ。


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