撮影日記


2011年10月30日(日) 天気:雨

いまさらだが,二眼レフのススメ

「いい写真」とはなにか。簡単に定義できるものではないが,とりあえず「きれいな写真」であることは,「いい写真」であることの基本的な要素の1つではないだろうか。「きれいな写真」がもつ基本的な要素にもいろいろなものがあるわけだが,ピントがあうべきところにきっちりあっていて,そこがシャープに見えていることは,1つの重要なポイントだろう。このとき,ネガなどの原版からプリントをつくるときの拡大率があまりに高いと,シャープに見えるべきところがどうしてもぼんやりしてしまう。
 ということで,原版が大きいほど「いい写真」につながりやすい。だから,カメラも大きいほどいいのだ。だからといって,大判カメラは先日の日記でもふれたように,少々扱いにくい。
 そこで,おすすめは中判カメラということになる。
 中判カメラにもいろいろな種類があるが,まだ二眼レフカメラを使ったことがないのであれば,この機会に購入を検討してみるのはどうだろうか。

そもそも,「二眼レフ」カメラとはなにか。
 「二眼」とは,レンズが2つあることを意味している。二眼レフカメラは,2つのレンズが縦に並んだ特徴的な姿をしている。

下側のレンズは,フィルムに結ぶ像を得るためのものである。上側のレンズは,ファインダーに結ぶ像を得るためのものである。
 「レフ」は,反射機構が組みこまれていることをあらわしている。上側のレンズの後ろには反射鏡(ミラー)があり,上のファインダーに像を結ばせるようになっている。

つまり,2つのレンズと反射機構とがあるから,「二眼レフ」カメラなのである。
 ちなみに,「一眼レフ」カメラは,このミラーが動くようになっており,1つのレンズをフィルムに像を結ばせるためにも,ファインダーに像を結ばせるためにも使い分けるようになっている。1つのレンズと反射機構とがあるから,「一眼レフ」カメラなのである。一眼レフカメラの多くは,豊富な交換レンズが用意されたシステムカメラであるため,「レンズ交換」が一眼レフカメラの特徴のように思われているようだが,レンズ交換ができるから「一眼」カメラなのではない。一部のディジタルカメラ製品において,このあたり「わざと」誤解を招くような表現が使われているような気がするのだが,これは今日の本題とは違うから,これ以上はふれない。

さて,個人的に感じる,二眼レフカメラの魅力はなにか。

まず,縦に長い,その独特のスタイルがある。
 ファインダーは,上から広いピントグラスを眺めるようになっている。そこに写った「絵」を見ながら構図等を決められるのは,狭い窓から覗くようなカメラと違って,被写体を客観的に眺められるような気がする。
 下を向いて撮影する姿というものは,大きな大口径ズームレンズをつけた一眼レフカメラを向けられるときほど,被写体にとって威圧的に感じることもないだろう。
 しかも,誰が見ても「古そうなカメラ」である。古い機械を楽しむには,こういう満足感も大切なのだ。

さらに,中判カメラであることは,大きな魅力である。二眼レフカメラは,120フィルムに6cm×6cmの大きさの画像を得ることができる。35mm判カメラだと,得られる画像の大きさは24mm×36mmなので,面積比で約4倍の大画面だ(二眼レフカメラの場合,実際の画面サイズは56mm×56mmくらいになるので,4倍よりも小さくなる)。
 そういう大画面を扱うわりに,カメラは小さく軽いのである。
 カメラの主要な機構であるシャッターは,撮影レンズの周辺に集中しており,カメラの下半部はまさに暗い空洞があるだけだ。また,カメラの上半部は,ミラーが入っているだけである。空洞の部分が大きいことは,見た目よりもさらに軽く感じられるということに影響しているだろう。
 そして,比較的安価に流通していることも,見逃せない。

二眼レフカメラが比較的安価に流通しているのは,その数が多いことがなによりも大きく影響しているだろう。また,そもそも安価な製品だったものも多い。さっそく,中古カメラ店を覗いてみるとよい。高級機やプロ用として流通していたものや,数の少ないレアものなどであれば,5万円,10万円,あるいはそれ以上のよい価格がつけられているだろう。だが,リコーフレックス,ヤシカフレックス,ビューティフレックスなどのように,低価格をセールスポイントにして爆発的に売れた製品は,状態にもよるだろうが,かなり安価な価格がつけられているはずだ。

それらの二眼レフカメラも,どれも同じように低価格だったというわけでもない。少しずつ仕様を変えて,他社の製品よりも少しは高級である,ということをセールスポイントにしたように思われる製品もある。
 二眼レフカメラの,製品としての差別化のポイントは,大きく4つにわけられるだろう。


 ・ボディ構造:安価なプレス加工か,丈夫なダイカストか。
 ・ピント調整:安価な前玉回転式か,正確な前板繰出式か。
 ・レンズ構成:安価な3枚レンズか,鮮鋭なテッサー型か。
 ・シャッター:低速側や高速側がどこまで対応しているか。

二眼レフカメラの全盛期だったといえる昭和30年前後,国産の高級なシャッターとして,「セイコーシャ・ラピッド」というものがあった。低速側は1秒から,高速側は1/500秒まで対応しており,1/25秒から1/200秒くらいまでしか対応していないようなシャッターとは,明らかに一線を画していたのである。たとえば,低価格をセールスポイントとしてきたリコーフレックスでも,自社生産の簡素なリケンシャッターを搭載したモデルより,セイコーシャ・ラピッドを搭載したモデルのほうが,はるかに高い価格がつけられていたのだ(2007年8月16日の日記を参照)。

ところで,「セイコーシャ (SEIKOSHA)」とは「精工舎」である。「精工舎」は,1930年からカメラ用のシャッターの製造をはじめており,その製品は,日本を代表するシャッターの1つであったのだ。しかし今,「精工舎」といえば,たぶん時計のほうが有名だろう。「世界のSEIKO」というとき,それはカメラのシャッターではなく,時計のほうを意味しているのは,まあ間違いあるまい。
 「精工舎」は,後に,腕時計製造部門が「第二精工舎」として分離・独立し,さらに第二精工舎の諏訪工場が「諏訪精工舎」として独立している。それぞれ現在は,「セイコーインスツル」「セイコーエプソン」という組織になっており,カメラのシャッターは「セイコープレシジョン」という組織が扱っているようである。


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