撮影日記


2020年01月30日(木) 天気:曇

この通天閣は,どこから撮った?

うちにある古い写真のなかに,わずかではあるが,モノクロのスライドがある(2007年9月14日の日記を参照)。これは,1964年1月ころに撮られたものである。そのなかに写っている看板に,「昭和39年元旦」という文字が含まれていることから,判断できる。

「明けましておめでとうございます」の下に,「昭和39年 元旦」と書かれている。

この恐竜の像は,かつて天王寺動物園にあったものである。つくられたのは1950年代らしく,1987年に開催された「天王寺博覧会」までには撤去されたようである。現在,その場所には「鳥の楽園」が設けられている。
 このモノクロスライドには,天王寺動物園周辺のようすが,いろいろと写っていた。そのなかには,通天閣の展望台から,天王寺公園を俯瞰した写真も含まれていた。

写っている像は,いまひとつ鮮明ではない。保存状態がよくなかったようで,汚れや傷も目立つ。糊つきのペーパーマウントにマウントされていたためか,とくに周辺部の状態がよくない。それでもこの写真には,左側に「大阪市立美術館」があり,その向こうに「天王寺ステーションビル」と当時の「近鉄百貨店」が写っていることがわかる。当然ながら,「あべのハルカス」はまだ存在せず,現在は高い建物が並んでいる「アポロビル」あたりにも,目立つ建物は少ない。また,中央やや右には,1枚目の写真にある恐竜像の存在が確認できる。
 これらの写真をきれいに取り込むために,マウントからはずして,軽く洗っている。
 現在のフィルムには,パーフォレーションの部分に,コマ番号のほか,メーカー名やフィルムの銘柄などの文字が長くない間隔で焼きこまれている。しかしこのフィルムでは,ごくたまに「FUJI SAFETY」という文字がかすかに見えるだけで,コマ番号も見られない。どのようなフィルムが使われ,どのように処理されたのか,確証がもてない。
 それはともかく,文字が焼きこまれていないために,表と裏が,わからなくなった。それでも1枚目の恐竜像の写真は,看板の文字が判読できるから,どちらが表か裏かわかる。2枚目は,特徴的な建物があるから,どういう向きに撮られたものかが判断できるので,どちらが表か裏かわかる。

ところが,この写真には,困った。表と裏が,判別できない。

写っているのは,通天閣である。見ての通りフィルムには,コマ番号など,表か裏かの判断に役立ちそうな情報がない。斜めから見ても,両面ともきわめて滑らかに見え,乳剤面を判別できない。
 なにかヒントになる情報が写っていないか,とりあえず取りこんでみた。

通天閣には,この当時から「日立」の広告が出ていた。しかし,そこにある文字は「日立」だけである。しかも,左右対称にしか見えない。「テレビジョン」などという文字でもあれば容易に判別できるだろうが,このデザインの「日立」だけでは,無理である。
 さて,この写真は,裏焼きになっているのだろうか?それとも,この向きで正しいのだろうか?
 twitterに投稿してみたところ,通天閣の右側に見えている丸い建物は,2階部分へあがるエレベーターである,という指摘をいただいた。
 これは,重要な情報である。
 2階部分を上から見るとほぼ正方形であり,このエレベーターは東側の辺についている。その位置は辺の中央付近ではなく,南東の角に寄った位置にある。あらためてこの写真を眺めると,見えている部分については,エレベーターと角との距離が長い。したがってこの写真は,通天閣を北東のほうから見たものであると判断できる。

そうすると,この写真は裏焼きになっていると判断でき,こちらが正しい向きとなる。

実際に,この向きで通天閣を撮ることができる場所があるだろうか。地図などで確認してみると,松屋町筋と国道165(25)号線とが交差する,「公園北口」交差点あたりから撮ったものであると判断できた。当時は通天閣周辺に高い建物などがほとんどなく,すっきりとした通天閣を見ることができたようである。

国土地理院「地理院地図」に,矢印や地点名を書き加えて作成。

ColouriseSGというWebサイト(*1)を利用して,このモノクロ写真をカラー化してみた。

これが,昭和39年の通天閣である。
 雲は多いが,それなりに晴れていたようだ。ともかく,はっきりしなかった写真の表と裏がはっきりし,この通天閣を撮ったらしい場所の見当もついた。この空のように,それなりにすっきりしたのである。

ところで,カラー化した写真をよく見ると,たしかに空は青くなり,公園の木々は緑っぽくなっている。しかし,通天閣そのものの色は,はっきりとしていない。
 ここで,ちょっと実験をしてみよう。
 この写真を90°寝かせた状態にして,ColouriseSGでカラー化してみる。

公園の木々の部分は緑っぽくなったが,空の部分はあいまいにしか着色されていない。
 このことから考えられることとして,ColouriseSGでのカラー化は,モノクロ写真の濃淡だけで元の色を判断しているのではなく,画像になにが写っているかを判断材料に加えているのではないか,ということである。たとえば画像の形から,それが空のようであれば,青く着色するようにしているのであろう。だから,通天閣そのものの色までは,判断しきれなかったと考えられる。

1枚目の恐竜の像の写真をカラー化したところ,こちらも空の部分が認識されたようで,青く着色されている。そして,木々は緑色になっている。恐竜の像はコンクリート製だったそうなので,それはあいまいなグレーでよいのかもしれない。こうやって眺めると,古い時代のカラー印刷の「きょうりゅうずかん」を眺めているような気分になってくる。これはこれで,おもしろい。

2枚目の,天王寺公園を俯瞰した写真も,空を空と認識したようだ。写真の上の方に,明るそうな(濃度の低そうな)部分があれば,そこを空と判断するように学習しているのだろう。しかし,建物の屋根がすべてあいまいなグレーになっているのは,実際にそうなのか,判断しきれなかったのか,そこはわからない。
 ともあれ,古い写真は,多少画質が劣化していても,そこからいろいろなことが読み取れておもしろい。そして,それに自動的に着色されると,区別しにくかったところが区別しやすくなって,見えやすくなるところもありそうだ。
 本当の色ではないのかもしれないが,これはこれで,おもしろい。

*1 ColouriseSG
https://colourise.sg/


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