撮影日記


2015年02月15日(日) 天気:晴

3台のNikon SB-1

私は,友人より届いていた荷物に驚愕していた。予告されていたとはいえ,予想をこえる大きなものだったからである。
 送られてきたものは,ニコンの古いフラッシュシステムである。
 システムに関係するもの「すべて」を収集するなかで,重複したものを引き取らせていただくことになったのである。

室内など暗いところでの撮影には,補助的な光源が必要となる。そのような場合,現在では,コンデンサに蓄電した電力で放電管を一瞬だけ非常に明るく発光させる「ストロボ」が使われることが多い。一般には「ストロボ」とよばれるが,メーカーによっては「ストロボ」という表現を使わないケースもある。「ストロボ」には,物体の動きを分割して記録するために一定の時間間隔で発光を繰り返させる「ストロボスコープ」を意味することもあり,アメリカ合衆国では「ストロボ」(strob)が商標として登録されていたこともあるのが,それらのメーカーが「ストロボ」という表現をさけていた理由と思われる(実際には少なくとも日本では,「ストロボ」という言葉を使うことに問題はない)。
 ニコンでは,「ストロボ」のかわりに「スピードライト」というよびかたをしている。
 「ストロボ」にかわる一般名詞としては,「エレクトロフラッシュ」というよびかたもある。一瞬だけ光ることをあらわす英単語は「flash」なので,このほうがより実態を明確にあらわすことになるはずだが,「エレクトロ」をつけずに単に「フラッシュ」とよぶと,「フラッシュバルブ(閃光電球)」をさすことが多くなるので,ややこしいと判断したのかもしれない。ニコンのカタログ等ではごくふつうに「スピードライト」という表現が使われているが,会話のなかで「スピードライト」という表現を聞くことは経験がないし,私自身も使ったことはない。会話のなかでは「ストロボ」あるいは「フラッシュ」とよぶことが多いだろう。

「ストロボ」は,1950年代にはすでにその存在はよく知られるようになっていたものと思われる。たとえば「アサヒカメラ」1954年8月号の「新製品メモ」では「レオタックスF」がとりあげられ,その特徴の1つとして「(前略)接点もストロボ撮影に備えてX,閃光電球撮影用にFとなった。」と紹介されている。ただこの号に,ストロボそのものの広告は見当たらないので,一般の人が手軽に買えるようなものではなかったのかもしれない。手元にある古雑誌等をいろいろ眺めていて,ようやく見つけたものは,「アサヒカメラ年鑑1958」(1958年4月20日発行)に掲載されていた「カコストロボ」のものである。そこで宣伝されている「カコS2ストロボガン」の価格は5800円で,さらに積層電池パックが1500円,積層電池が1500円だから,合計8800円ということになる。この広告のなかで,「カコS型をカコS2型に改造します」というサービスも謳われているので,その発売はこの前年くらいであろうか。なおこのころの閃光電球は,大きさにもよるが20円〜40円くらいのようなので,初期投資が比較的安価だがランニングコストが高い閃光電球(フラッシュバルブ)と,初期投資は高価だがランニングコストが安い「ストロボ」(エレクトロフラッシュ)とは,使用頻度や用途によって,棲み分けしていたものと思われる。

ニコンから初めて発売された「ストロボ」は,「ニコンスピードライト」というものである。その発売時期は,ニコン(日本光学工業株式会社カメラ営業部)発行の冊子「ニコンの世界」(1978年7月10日,第5版)に掲載された年表では,1969年2月ということになっている。また,朝日ソノラマ「クラシックカメラ専科No.46 ニコンワールド」(1998年6月25日発行)における外畑功氏の記名記事では,1968年9月発売と記されているが,これは「発売」ではなく,フォトキナでの「発表」を意味するものと思われる。ともかく,カコの製品よりもずいぶんと遅い発売である,ということである。
 「ニコンスピードライト」は,メインライトユニット「SB-1」(18000円,価格は日本カメラショー「カメラ総合カタログVol.35」1969年による,以下同)というグリップ型「ストロボ」を中心にしたシステムとして発売された。「SB-1」のグリップ部には,Ni-Cd電池「SN-1」(3000円)を内蔵させられる。充電器兼用のACユニット「SA-1」と接続して,Ni-Cd電池に充電して撮影に用いることも,Ni-Cd電池を使わずにAC電源で撮影に用いることもできる。

今回,引き取らせていただいたものには,メインライトユニット「SB-1」が3台と,ACユニット「SA-1」が2台が含まれていた。「動作しないものも含まれている」とのことだったので,さっそく1台ずつ動作を確認することにした。

まず,1本目(これを仮に「1号機」とよぶことにしよう)。
 これは,発光した。特性等の変化はあるかもしれないが,問題なく発光した。

つぎに,2本目(「2号機」とよぶことにする)。
 残念ながら,発光しない。チャージランプは点灯したのだが,発光しなかった。

さいごに,3本目(「3号機」とよぶことにする)。
 チャージのときの音が,ほかの2台にくらべて異なっている。ジリジリジリという,異常な状況を感じる音である。煙が出たりしないかとひやひやしながら待つが,チャージランプは一向に点灯しない。そして,やはり発光しなかった。

2台あったACユニット「SA-1」を交換して試してみても,結果は同じ。3台の「SB-1」のうち,発光したものは1台だけであった。「ストロボ」で劣化しやすい部分は,コンデンサである。発光させるための電力を蓄える部品であるが,コンデンサはどうしても,経年劣化するものだ。2号機,3号機は,そのコンデンサが劣化しているものと予想される。コンデンサを交換すれば復活する可能性はあるが,まずはどんな規格のコンデンサが使われているかを確認しなければならない。
 発光しなかった2台のうち,2号機はいちおうチャージランプが点灯するのに対し,3号機はチャージ時に異音が発生しチャージランプが点灯しなかったことから,チャージあるいは昇圧のための回路も劣化しているものと予想される。つまり,ダメージが大きいだろう。まずは,3号機に犠牲になってもらうことにする。

さて,分解しようにも,ネジが見当たらない。こういうときは,貼り革の下にネジが隠されているのがよくあるパターンだ。

さらに,こういう飾りリングも,ネジを隠すために使われることが多い。

これらのネジをはずすと,本体を開くことができた。

発光のための電力を蓄えるコンデンサは,この巨大なものであろう。
 さて,コンデンサには「耐圧」と「容量」という規格があるのだが,このコンデンサには規格が印刷されていない。手書きで,「345」と「220」という数値が書かれているのみ。これはなにを意味するのだろうか?耐圧345V,容量220μFなのか?逆に耐圧220V,容量345μFなのか?
 また,これとは別に,小さなコンデンサ(耐圧16V,容量10μF)が明らかに液漏れしていたので,それは交換してみた。ただ,それを交換しても症状に変化は見られなかった。

巨大なコンデンサは怖いので,続きはまた次の機会にする(^_^;

Nikon SB-1のシステムは,メインユニットである「SB-1」を中心に,積層電池用や単一乾電池用の電池パック,接写用のリングライトなども用意され,システムとして企画された製品であった。引き取らせていただいたなかに,そのシステムを構成するリングライトユニット「SR-1」(12000円)3台が含まれていた。

残念ながら,「SR-1」は1つも発光しなかった。3台の「SB-1」,3台の「SR-1」,さらに2台の「SA-1」をいろいろ組みあわせをかえて試したが,発光することはなかった。
 「SR-1」は発光管部分のみで,電源はすべて「SB-1」のほうに依存しているように見える。だから発光しなかった2台の「SB-1」との組みあわせでは発光しなくてもしかたないが,発光する「SB-1」1号機との組みあわせでは「SR-1」も発光することが期待できたのだが,残念である。
 いまのところ,「SR-1」が発光しなかった理由は,わからない。怪しむべき個所は,接続コードかあるいはその周辺だろうか。

このたび引き取らせていただいた機材はほかにもあるので,それもまた別の機会に紹介したい。
 おもしろい機材をご提供いただいたこと,別の見方をすればニコンではじめてのスピードライトシステムという貴重な機材をご提供いただいたことに,深く感謝したい。


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