撮影日記


2014年3月31日(月) 天気:晴れ

AF-S VR Zoom-NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G IF-ED
「VR」の位置はどこが正しい?

気がつくと,ディジタル一眼レフカメラ「Nikon D70」を買ってから,およそ10年になる(2004年12月30日の日記を参照)。600万画素というスペックは,ふつうに記念撮影などをおこなうには必要にして十分なものだ。そうはいっても,最近の製品にくらべれば見劣りするし,今後,不調な個所も出てくることが懸念される。そろそろ,次のディジタル一眼レフカメラの購入を考えたいところだ。
 つぎに購入するものは,ニコンD70のようなAPS-Cサイズの撮像素子をもつカメラではなく,ライカ判サイズの撮像素子をもつカメラにしたい。それに先立ってなにか,ディジタル一眼レフカメラの機能をフルに生かせる標準ズームレンズを買っておこうと考えた。そこで,中古価格がかなり崩れてきていてた「AF-S VR ZOOM-NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G IF-ED」をお迎えしたのである。それも,今日。まるで,消費税アップ直前の駆けこみみたいではないか(笑)。そういえば,「ニコンF3」様をお迎えしたのは,消費税が3%から5%にアップする直前のことだった(1997年3月28日の日記を参照)。

このレンズ最大の特徴は,VR(手ブレ補正)機構をもつことだろう。鏡銅に埋めこまれた赤い「VR」の文字が誇らしげである。ところで,昨夏に入手したVRレンズ「AF-S DX Zoom-NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6G VR」(2013年7月21日の日記を参照)では,「VR」の文字は赤ではなく金色となっている。

ここで,ふと疑問が出る。
 赤いVRと金のVRに,なにか違いはあるのだろうか?
 カタログを見て気がついたことは,ある時期から「VR」が赤から金にかわったようであること。そして,「赤いVR」レンズの製品名では「VR」が「NIKKOR」の前につくのに対し,「金のVR」レンズの製品名では「VR」が後ろについていることだ。製品の名称表記の問題であり,VRのしくみの差をあらわすものなどではないようである。

ところでニコンが「ニッコール」の名前で写真用レンズの商標を登録したのは,1932年とのこと(*1)。小型カメラ用のニッコールは,1936年のハンザキヤノン(*2)用に供給された「Nikkor 5cm F3.5」からはじまっており,戦後,距離計連動カメラ(レンジファインダーカメラ,ビューファインダーシステムカメラ)である「ニコン」カメラやライカ用など高級カメラ用レンズとして高い評価を得てきた。

距離計連動カメラ用ニッコールレンズの例 NIKKOR-Q 13.5cm F3.5 'C'

その後,小型高級カメラの主流は距離計連動カメラから一眼レフカメラに変わる。一眼レフカメラが「使いやすい」カメラになるためには,シャッターが動作する間だけ絞り込まれる「自動絞り」機構が必要とされた。ニコンが発売した最初の一眼レフカメラ「ニコンF」は,自動絞りを実現していた。自動絞りに対応したニコンF用のニッコールレンズは,「ニッコールオート」という名称になっていた。「オート」は,絞りが絞り込まれる動作が「オート(自動)」だ,ということである。

ニッコールオートの例 NIKKOR-S AUTO 50mm F1.4

「ニコンF」を含め,一眼レフカメラはさらに使いやすくなるために,「TTL開放測光」という機構をもつようになった。TTL開放測光のためには,レンズが開放状態から何段階絞り込まれるかという情報を露出計に伝達する必要がある。しかし,「ニッコールオート」が伝達できる情報は,「絞り値」(F値)であるため,別途,レンズの開放F値を伝達しなければならない。その操作が少々煩雑だったため,後継機の「ニコンF2」などでは,「Ai」方式という機構が設けられるようになった。そのためのニッコールレンズは,「Aiニッコール」と名乗ることになる。

Aiニッコールの例 Ai NIKKOR 35mm F2

一眼レフカメラは,自動絞りやTTL開放測光とともに,AE(自動露出)機構ももつようになった。さらには,AF(自動焦点)機構も実現されるようになる。AF機構に対応したニッコールレンズは,「AFニッコール」を名乗る。一眼レフカメラのAF化にともなって,キヤノンやミノルタはより使いやすいAFカメラにするために旧来のカメラとの互換性を犠牲にしてレンズマウントを変更し,レンズとボディとの情報伝達を機械的なものから電気的なものへ変更した。ニコンは旧来のカメラとの互換性を重視してマウントを変更せず,電気的な情報伝達と機械的な情報伝達を併用した。したがって,このときのAFニッコールレンズにはAi機構ももっており,カタログ等では「Ai AF NIKKOR」という名称になる。

Ai AFニッコールの例 Ai AF NIKKOR 85mm F1.8S
メーカーによる改造サービスで,ニッコールオート時代からの「カニ爪」を取り付けることもできた。

ところでニコンでは,色のにじみ(色収差)を抑えることができるEDガラスを開発し,レンズの性能を高めるために使用している。EDガラスを使ったレンズが組み込まれたニッコールには,「ED」という名称も付加され「ニッコールED」などと名乗ることになる。また,ズームレンズは「ズームニッコール」と名乗っており,そこに「Ai」や「AF」などが加わると,レンズの名称がどんどん長くなる。

「ズーム」と「ED」がついたニッコールの例 Ai AF ZOOM-NIKKOR ED 70-300mm F4-5.6D

ニッコールレンズにつく「記号」としてはこのほか,なかほどのレンズ群だけが移動してピントをあわせる「IF」や,APS-Cサイズの撮像素子をもつディジタル一眼レフカメラ専用レンズを意味する「DX」など,さまざまなものがある。そしてレンズの名称はどんどん長くなるが,このころになると機械的な情報伝達機構がなくなって,「Ai」という記号がつかなくなっている。

「DX」がついたニッコールの例 AF-S DX ZOOM-NIKKOR 18-70mm F3.5-4.5G IF-ED

…とまあ,ニコン製品のファンならばだれもが知っているようなことをあらためてだらだらと書いてみた。
 こんなことを書きたくなったのは,製品の箱には,それらの文字の順序をあまり気にするなと言いたげな雰囲気が漂っていたためである。
 あまり,気にしないことにしよう。

*1 知られざるニコンの歴史 Aero-NIKKOR (ニコン)
http://www.nikon.co.jp/channel/recollections/04/

*2 標準型(ハンザ・キヤノン) (キヤノンカメラミュージアム)
http://web.canon.jp/Camera-muse/camera/film/data/1933-1955/1936_hyo-han.html


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