撮影日記


2013年03月24日(日) 天気:晴

海沿いの路地裏で 朽ちた電動オルガンを見た

厳島神社というものは,日本全国に数100ヶ所あるという。その総本社は,世界遺産としても登録されている,広島県廿日市市にある「厳島神社」である。「厳島神社」の景観の特徴の1つとして,海の中に建てられた大鳥居があげられる。鳥居は,神域への入り口をあらわすものとして,参道の入り口に建てられるものだが,ここではそれが道のない海中に建てられているのである。「厳島神社」の場合,島全体が神域とみなされていたこともあり,海そのものが参道だったということになるわけだ。
 広島県内の,とある海沿いの集落のなかにも,小さな厳島神社があった。日本全国に数100ヶ所あるという厳島神社のすべてがそうなっているのかどうかは知らないが,ここの厳島神社でも,参道が海から続いており,その先,海の中に小さな鳥居が建っているのが見える。周辺には小規模な造船所やドックなどもあり,かつてそこでは多くの人がはたらき,商店や飲食店もあったそうだが,今は往時ほどのにぎわいではなく,ひっそりとしている。
 そんな集落の路地裏に,なにやら古めかしい物体があった。

ぱっと見たところ,むかし,小学校で使ったことのある足踏みオルガンのようである。長年,雨ざらしで放置されていたためであろうか,表面には化粧板が貼られていたり,あるいはきれいに塗装されていたものと思われるが,それらはすべて失われているようだ。鍵盤部分には蓋があったと思われるが,それは完全になくなっており,蓋がついていた金具だけが残っている。こういう場所は,どこまでが個人の敷地でどこまでが里道なのかわかりにくいのだが,このオルガンが放置されている場所は物置らしき建物(その扉は開けっ放しで,長年,閉められたことがないんじゃないかと思われるほどだ)の前である。勝手にさわって申し訳ない,と思いつつ鍵盤に触れてみるが,外見から予想されたとおり,固まっていてまったく動かない。海沿いの集落で屋外に放置されていたわけだから,雨だけでなく潮風の影響もあるのだろう,内部は完全に錆びつき,砂などもたまっているのかもしれない。
 ふと見ると,右側に電源スイッチらしきものがある。

電源が必要ということから察するに,これは足踏みオルガンではなさそうだ。ということは,電子オルガンか?電子オルガンであれば,音色を選択できるなど,もっとスイッチ類があってもよさそうだが,鍵盤と電源スイッチのほかには,左側にレバーが1つ見えるだけである。このレバー,手前に「LOUD」と書いてあるので,音量の調整であろうか。音量の調整がレバー1つで簡単にできるのは,電子オルガンならではのことであろう。それにしても,これだけシンプルな電子オルガンは,電子オルガンとしてかなり初期のものということだろうか。なにせ表面が完全に剥げているので,メーカー名や型番などの参考になりそうな情報がみあたらない。

その夜。twitterを通じて,このオルガンが「電子オルガン」ではなく「電気オルガン」あるいは「電動オルガン」とよぶべきものであることを知った。足踏みオルガンは,足でペダルを踏むことで空気を送りこみ,音を鳴らすようになっている。それに対して電動オルガンというものは,モーターで送風機を回し,それが送りこむ空気で音を鳴らすようになっているものとのことだ。左側にあった「LOUD」のレバーは,送風機が送る空気の量を調整,すなわち音量を調整するものであろうということだ。「電動オルガン」というものの存在を,はじめて知ったのである。教えてくださった1人によれば,50年くらい前のものだろう,とのこと。
 念のために書き加えておくが,いわゆる廃墟探訪などの目的で見つけたものではない。この路地は,これまでにも何度も通っているのだが(目的地への裏道なので,通る機会はごく少ないのだが),こんな大きなものの存在にこれまで気がつかなかったというだけのことだ。要は,私の目が節穴なのである(笑)。なお,これを使っていた人がどんな人で,いつごろ,どんな曲を奏でていたのか,そしていつからここに放置されているのか,残念ながら私は知らない。


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