2011年07月19日(火) 天気:台風接近
フィルムの冷蔵ケースが消えた! フィルムが買えなくなる日も近いのか?
広島駅周辺には,中古カメラ店が多く集まっていることは,これまでにも何度か書いてきた(たとえば2011年7月8日の日記を参照)。代が変わったり,経営者が変わったり,リニューアルしたりと変化しながらも続いているお店がある一方で,消えていったお店もある。広島駅周辺では,私が知るかぎりでも,福屋1Fに入っていた「オクダカメラ」と的場町交差点にあった「ラッキーカメラ」とが姿を消し,中古カメラ店ではないが「ビックカメラ ベスト広島店」も閉店した。「ビックカメラ ベスト広島店」は,「ベスト電器B・B広島店」としてリニューアルオープンしたようだが,もはやそこはカメラ店ではない。そりゃ,ディジタルカメラやビデオカメラなどは扱っているかもしれないが,そこをカメラ店と思う人は,どこにもいないだろう。
消えていったカメラ店は,それだけではない。
紙屋町にあった「カメラのドイ」も,いつしか消えていった(2003年8月28日の日記を参照)。カメラの収集をはじめたころに,よく利用したお店である。個人的には縁がなかったが,広島に古くからあった「ギンレイカメラ」も,2004年に閉店した(新・マミヤプレスファンクラブ掲示板の投稿を参照)。
その他,個人営業のような小さなカメラ店も,少しずつ街から姿を消していった。
消えていったのは,カメラ店だけではない。
私が広島に住むようになったころにはすでに消えていたのかもしれないが,広島にはかつて,「イエローチェーン」というDPE店があった。以前,大洲カメラの店主さんに聞いた話によると,広島でのDPEの価格破壊をはじめたお店だそうだ(2008年7月21日の日記を参照)。価格破壊という衝撃を与えられたということは,そのころには相当に大きな規模のお店だったということだろう。
著名なDPEチェーン店のほか,コンビニエンスストアやクリーニング店,ドラッグストアなどには,お決まりのように「同時プリント0円」の看板が掲げられているのを記憶している人も多いはずだ。いま,そんな光景はもう見られないのではないだろうか?ハーフサイズカメラで36枚撮フィルムをめいっぱい使い,「同時プリント0円」のお店に依頼すれば,現像料のみで80枚近くものプリントを得られたのも,もはや過去のことだ(2004年5月27日の日記を参照)。それらのお店に集配をおこなっていた現像所も,つぎつぎに廃業したりあるいは統合されたりして,その数を減らしているのである。
その他,個人経営に近いようなミニラボ店もあちこちにあったはずだが,これらもいつしか,姿を消していった。
そもそも,フィルムの出荷が減っているのである。そもそも,フィルムを使うカメラの出荷が減っているのである。
「カメラ映像機器工業会」の統計(*1)を見ると,2008年1月までは「銀塩カメラ」の生産・出荷のデータが掲載されている(*2)。しかし,翌月2008年2月からは「※銀塩カメラ合計の区分は、集計上の規定を満たさなかったため、表示が出来ません。(3月分以降も、同様に銀塩カメラ合計の区分は、表示されません。)」との注記とともに,数値が空欄になった(*3)。さらに,翌年2009年1月からは,その欄そのものがなくなっている(*4)。
2008年以降,フィルムを使うカメラの出荷は,ごく限定的なものになっているのである。
幸い,近年の工業製品の品質はたいへんすぐれているので,エントリーモデルの製品であっても,5年や10年くらいは平気で使える。使える機械があるならば,それが必要とする消耗品であるフィルムも,それなりに消費される。だが,カメラの出荷が減少する一方でディジタルカメラの出荷が増えていることから,カメラの出荷が減ったのはディジタルカメラの普及の影響が大きいと考えられる。ディジタルカメラが普及すれば,フィルムが使われなくなる。だから,カメラの出荷より少し遅れて,フィルムの出荷も減少することになる。
フィルムの出荷がどれくらい減少しているかは,2011年7月6日の日記でも紹介したとおり,「日本カラーラボ協会」の公開するデータ(*5)からわかるように,2003年から2010年にかけて1/10以下に減少しているのである。
最近,所用あって「カメラのキタムラ 広島・祇園店」に立ち寄っところ,お店の雰囲気になにか違和感があった。
かつては,お店のなかでフィルム売り場が占める割合は,かなり高かったはずだ。いつしかその空間を,メモリカードやCD-Rなどの記録メディア,インクカートリッジや用紙などのプリンタ用消耗品が占めるようになっていく。フィルム売り場には,その面積を狭められながらも,多種多様のフィルムが並べられてきた。そして,フィルム売り場の一角には必ず冷蔵ケースがあり,そこにはリバーサルフィルムやプロ用カラーネガフィルム,モノクロフィルムなど,プロやマニアが使いたがるフィルムが並べられていたものである。
そんな,フィルム売り場のアイデンティティとでも呼びたくなるような冷蔵ケースが,「カメラのキタムラ 広島・祇園店」から,忽然と姿を消していたのである。違和感の原因は,それだったようだ。「カメラのキタムラ」のようなお店では,店内によく冷房が効いているし,入口も自動ドアになっていて開放されているわけではないので,冷蔵ケースに並べなくてもそんなに品質が劣化することもないだろう。だからそもそも,冷蔵ケースは必要なかったのかもしれない。だが,冷蔵ケースではないただの棚にリバーサルフィルムが並べられているのを見るのは,寂しさと不安とに襲われるのであった。「不安」というのは,冷蔵ケースに並べられていないことによる品質への不安ではない。そんなことに不安を感じているようでは,炎天下でフィルムを使った撮影などできないだろう。私が感じた不安は,「もう,このお店では,本気でフィルムの在庫を揃えておくつもりはないのではないか」というものだ。手近なお店で手軽にフィルムを買えなくなるのではないかという不安は,「フィルムを買えなくなる日が遠くないのではないか」という不安にもつながるのである。
ともあれ,これからもフィルムで撮影したいと考える私たちに,いまできることは,変わらずフィルムを使い続けることである。そんなに遠くないうちに,フィルムは通信販売でしか買えなくなるかもしれない。いや,「どこでも買える」フィルムは,すでにかなり限定的になっているのだ(2011年4月5日の日記を参照)。なお,自宅は「カメラのキタムラ」のようなお店とは異なり,いつもいつも冷房をよく効かせているわけではない。だから,通信販売でまとめ買いしたフィルムなどは,やはり冷蔵庫で保管するのがよいだろう。
*1 「CIPA:交換レンズ」(カメラ映像機器工業会)
http://www.cipa.jp/data/silver.html
http://www.cipa.jp/stats/lens_j.html
現在,このページは「交換レンズ」の生産・出荷データを提供するページということになっているが,以前は「銀塩カメラ/カメラ用交換レンズ」の生産・出荷データを提供するページであった。HTMLファイル名がかつて「silver.html」だったのは,その名残と言えるだろう。
*2 「銀塩カメラ/カメラ用交換レンズ生産出荷実績表 2008年1月分」(カメラ映像機器工業会統計)
http://www.cipa.jp/data/pdf/s_200801.pdf
http://www.cipa.jp/stats/documents/j/s_200801.pdf
*3 「銀塩カメラ/カメラ用交換レンズ生産出荷実績表 2008年2月分」(カメラ映像機器工業会統計)
http://www.cipa.jp/data/pdf/s_200802.pdf
http://www.cipa.jp/stats/documents/j/s_200802.pdf
*4 「銀塩カメラ/カメラ用交換レンズ生産出荷実績表 2009年1月分」(カメラ映像機器工業会統計)
http://www.cipa.jp/data/pdf/s_200901.pdf
http://www.cipa.jp/stats/documents/j/s_200901.pdf
*5 「国内フィルム市場の動向 ロールフィルムの国内出荷本数推移(2006年〜2010年)」(日本カラーラボ協会)
http://www.jcfa-photo.jp/archives/bussiness/report/report07.html
http://jpia.jp/jcfa/archives/bis/report/report07.html
追記
2011年7月27日には,石川県金沢市の「カメラのキタムラ金沢・元町店」でもフィルムの冷蔵ケースがなくなっていた,という報告をいただいた(http://twitter.com/#!/jpskenn/status/96074637393408001)。情報提供に感謝!
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